雨上がりに僕らは駆けていく Part1

墓標のない土地

第５５５話

　思わず出た、ワード。

　どうしてそう聞いたのか、自分でもよくわからない。

　亮平と言えば、不器用で頑固、それからおっちょこちょいで、時間にルーズ。

　他にも、色々ある。

　剣道をしてる彼が横切ったのは、ただの偶然。

　そう、思えるくらい。


　まあでも、袴を履いてる彼の姿が、いちばん馴染みがある。

　第一、それ以外に取り柄がなかったもん。

　言い方は悪いけど。


　「はあ？」


　彼の眉間のシワが動いた。

　ピクッと、表情は重く。

　そんなに難しい質問だったか？

　簡単だと思うんだけど？


　「用がないなら帰るで？」

　「…いやいや、質問に答えぇや！」


　なに切り上げようとしてるんだ。

　ストップストップ。


　「人の話を聞け」

　「喧嘩売りにきたんやろ？」


　…なんでそうなる？

　白昼堂々喧嘩売りにくるバカがいるか？？

　あんたくらいでしょそんなやつ。


　「売ってないわ」

　「要件を言え」

　「せやから、剣道やっとるかって聞いとんや」

　「お前に関係ないやろ」


　…もしもーし？

　質問の答えになってないが？

　日本語わかりますか？

　亮平くん。


　「やってないって言ったらどうなんねん」

　「…いや、どうもせんけど」

　「俺に構うなって言うたよな？」

　「…え？」

　「もうええか？」


　ちょいちょいちょいちょい

　…俺に構うな？

　なに怒ってんだよ

　話を聞きたいだけなのに



　キーンコーンカーンコーン



　チャイムが鳴って、４限目が始まった。

　って、げ！！！

　やばい！

　体操服のままだ…！

　あーもう、なんでこんなことに…


　「あとでまた来るからな！」

　「…」


　何も言わずに彼は自分の席に戻っていった。

　無視すんなよ。感じ悪いな。

　

　次の授業は何？

　とりあえず教室に戻ろう



　ドタドタドタドタドタドタッ



　…ガラッ！！



　「おうおう、どこ行っとったん？」

　「あああ…、制服制服！！」

　「はよせんとキョンキョンが来るで」

　「げっ、よりによって英語かい…」


　キョンキョンというのは、今日子先生のあだ名だ。

　早く着替えないとやばい。

　時間にシビアだからね、キョンキョンは…


　「もうそのまま受けたら？」

　「バカなこと言うとらんと、手伝って！」


　…なんであんなに不機嫌なんだろうか。

　へんなこと聞いてないよね？

　剣道やってるか？って聞いただけじゃん。

　なにがそんなに…


　「ねえ」

　「ん？」


　早く早くとブレザーを両手で持ってくれてるハツの横にいるのは、沙希。

　長いハイライトカラーのさらうるストレートに、豊満なプロポーションを持つ彼女。

　フルネームは勅使河原沙希という。

　バレー部所属だった彼女は、亮平ともよく絡んでた。

　だから尋ねた。

　アイツは今、剣道部なのか？って。