537 / 698
【第8章】一瞬の風
第536話
しおりを挟む目が覚めたのは朝の8時だった。
雪は止んでて、朝露のしずくが、ポタポタとガラス戸の向こうで光りながら、静かな足音を立てるように落ちていた。
亮平の姿は見当たらなかった。
キッチンにも、大広間にも。
どこに行ったんだろう?
玄関から庭に出て、冷え切った空気が全身にぶつかる。
スゥッと、息を吸った。
痛いくらいに冷たい雪の匂い。
どこまでも落ちてくる冬の動悸。
凍った水の透明さが、底冷えのする地面のつなぎ目を泳ぎながら、川の流れのように穏やかに、染み込んだ静けさの合間をジャンプしていた。
それを追いかけるように色付いていく白。
町のいちばん高いところも、低いところも、新しい色のつなぎ目に解かれるように、朝の落ち着きを散りばめている。
神戸とはまた違う空気が、肺の中に一気に流れ込んでくる。
酸素が美味しい。
そう感じることは稀で、きっと、その感覚は、この町の隅々にまで届いた密やかな時間の流れが、寂しいくらいに痩せこけた引き戸を引いたその先に、茫漠と広がっているからだとも思った。
周りを見渡してみたが、誰もいない。
リビングに戻ってテレビのチャンネルを変えようとすると、キッチンの方で物音が聞こえた。
朝食でも作ってるんだろうか?
ヒョイっと覗き込む。
だけどいない。
どうやら、裏庭で洗濯物を干してるみたいだった。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
こんなに寒い気温なのに、絶対乾かないでしょ。
手伝おうと思ったがやめた。
手が悴む。
水が冷たすぎて顔を洗う気にもなれないのに、洗濯物なんて干してられない。
なにか食べる?
と言われたが、生憎昨日の鍋がまだお腹に残ってる。
逃げるようにコタツに足を突っ込んで縮こまった。
そういえば、コタツに入るのは久しぶりだな。
アキラん家でマリカした時以来だ。
…っていうか、つい最近入ったっけ??
よくよく考えると、最初にタイムリープした時に亮平ん家に行ったんだ。
しかもそのあとも、同じようにタイムリープして…
そうそう。
季節が急に変わるなんて滅多なことじゃ起こらないから、すっかり忘れてた。
婆ちゃん、今頃なにしてるかなぁ…
私ん家は私ん家で大パニックだろうけど、婆ちゃんは婆ちゃんで心配してるだろうな。
亮平は昔からあんなだし、どこほっつき歩いてるんだって絶対思ってる。
ちゃんと連絡してるんだろうか?
…いや、スマホいじってる様子なんてほとんどなかったし、きっとしてない。
全く、とんだ親不孝もんだよ。
帰ったら、ちゃんと謝りなよ?
私も同席してあげるからさ?
…ま、母さんに弁解する時も、あんたに同席してもらうけど…
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。
梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。
ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。
え?イザックの婚約者って私でした。よね…?
二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。
ええ、バッキバキに。
もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる