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【第8章】一瞬の風

第534話

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 「なあ」

 「ん?」

 「どんな感じなんや?」

 「なにが??」

 「千冬の記憶を共有しとるんやろ?どんな感覚?」

 「…あー、いや、別に特別なことはないけど。長い夢を見たような、…そんな感じ?」

 「ふーん」


 せんべいを食べながら、お笑い番組のトークに時々ツボってる。

 笑い方は、昔から変わってない。

 驚かされることもたくさんあるけど。


 「160キロ、…か」


 亮平は、キーちゃんのことを気にかけてた。

 それから、「自分」のことについても。


 「死ぬ運命やった、…って?」

 「…あ、うん」


 赤裸々に話すつもりはなかった。

 つい口が滑ったのは、彼から、「夢」のことを聞いたからだ。

 まさか、と思った。

 だけど、偶然にしては出来すぎてる。

 「最初の世界」とは関わりがないはず。

 でも、2人が同一人物であることに違いはない。

 だからもしかしたら…

 と思った。


 「運命…か」

 「あくまで憶測やで?」


 最初の世界で、亮平は死ぬ運命だった。

 でもそれは、あくまで仮説だった。

 完璧に立証できるわけじゃない。

 だから、あんまり深く考えすぎにようにと、付け足した。


 「楓はどう思う?」

 「どう…、って?」

 「運命は、存在しとると思う?」


 キーちゃんにも言われた。

 甲子園。

 そのグラウンドの上で。

 正確には、「運命」という言葉は出なかった。

 だけど、言ってた。

 世界は元々1つだったって。

 マウンドの上。

 降りしきる日差し。

 アフリカン・シンフォニーが響くあの真夏の大舞台は、紛れもない「時間」に、存在していたと。


 「そういうことやなくて」


 彼は韻を踏んだ。

 否定的な言葉も、肯定的な言葉も、そこにはなかった。

 ただ、尋ねてきた。

 “私が本当に存在していないかもしれない”。

 その可能性についてを。


 「…わからん」

 「でも、最初の世界を認めるっていうことは…」


 彼の言いたいことはわかってる。

 “つもり”なんかじゃなくて、きっと、確かな部分で。

 私が「セカンド・キッド」だという存在について、考えてしまう時間がある。

 彼が言うように、そのことを信じられないし、信じたくもない。

 だけどそれとこれとは話が別だ。

 そう、思った。


 「どこらへんが??」

 「そんなんわからんけど、言ったやろ?母さんも父さんも、私が生まれるよりもずっと前に死んだ。そんなこと、信じられると思う??そんなことより、私はあんたが…」


 彼が、…亮平が、死ぬかもしれない。

 そのことの現実が、手に触れるほどの近くにあった。

 ただ、そのことの事実を、ほっとくわけにはいかない。

 そう思うことが、すごく身近に。
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