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死線

第512話

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 交差点の中に足を踏み入れて、猛スピードで何かが近づいてくる音が聞こえた。

 白線の内側にダイブしながら、それでいて信号機の色が変わらない、——その先で。


 振り向く間もなかった。

 突然視界が回転して、体全部が持ち上げられるほどの大きな力が真横からやって来て、街の景色が残像の中に消えるように動いた。

 重力に引っ張られるような、風に吹き飛ばされるような感覚だった。

 気がついたら自分は地面にいた。

 アスファルトの粗雑な表面がわかるほどの、近くに。


 意識が遠のいて、目が覚めるとそこは別世界だった。

 何が起こってるかなんてわからなかった。

 ただ闇雲に時間が動いて、声を上げる暇さえなくて。

 ——落ちていく

 その感覚が、傍にあった。

 思うように身動きが取れない、空間の底。

 パッと目が覚めて、梨沙の声が聞こえる。


 「お姉ちゃん朝だよ!」


 と。

 目覚めたての朝を、優しく揺り動かすような。



 カーテンを開けた先の一面の銀世界は、現実と呼ぶにはあまりにも眩しい“明るさ”だった。

 起きているのか寝ているのかも、一瞬わからなくなるほどの彩度。

 それが止めどない濁流のように世界の果てから降ってきて、無造作に舞う白の葉末が、キラキラと光の隙間を飛び跳ねていた。

 朝。

 その全ての時間の矛先が洪水のように訪れたガラス越しの冬。

 思わず目を奪われたのは、まるで世界から、1つの色が抜け落ちてしまったかのようなハイライトが、冴え冴えしいほどに近づいてきたからだ。

 遠くでいて、限りなく近い。

 胸の奥で聞こえる心臓の音が、そっと静かに、聞こえてくるみたいで。
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