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死線
第510話
しおりを挟む電車はいつの間にか市街地を抜けた。
雪は相変わらずパラパラと空から落ちてくる。
見たこともない土地と景色の奥で、通り過ぎていく風景の切れ間から、明滅する白。
その色の最中に掠めるものが「雪」なのか、「光」なのか、はっきりとした実体を手に触れて確かめることはできない。
曇った窓ガラスに手を当てて、冷たい温度を指に押し当てながら考えた。
いつから世界は、冬になったんだろう
と。
母さんから着信がかかっている。
ついでに梨紗からは、
『今どこにおる!?』
のラインメッセージ。
前回もそうだった。
ベットの上で目が覚めて、暖房がガンガンに効いたリビング。
クリスマスの話題で盛り上がっているテレビは、日常と呼ぶにはあまりにも季節外れだった。
日付の間違えているカレンダー。
暑苦しい梨紗の寝巻き。
12月なんて、そんなバカな…って思ったんだ。
見慣れない数字が、あまりにも不自然でさ。
ここが2013年の世界だと改めて考えると、不思議に思わずにはいられない。
未来から来たという幼馴染に、フラッシュバックする記憶。
今日はクリスマスパーティーだから、家族と買い物に行かなきゃいけない。
巨大チキンに、クリスマスケーキ。
それなのに何故か、今、電車に乗って大阪にいる。
それがどうしようもなく、どこか別世界の出来事にさえ、思えた。
「野球で例えられても分からん」
そう言うしか、言葉がない。
だって、全然簡単に言えてないし…
他にわかりやすい例えないの?
わかりにくすぎるんだよ、色々と。
「そうやなぁ…。今日という1日が永遠に終わらんかったとしたら、どう思う?」
「…んん??今日が?…うーん、明日が来ないってこと?」
「明日が来ないだけやなくて、昨日も永遠に生まれない」
「いやだから、わかりにくいって!」
「どれだけ時間を過ごしても、何も生まれないし、残らないって意味や」
「…え?」
「世界から確かな「結果」が無くなる。俺たちが存在してることも、存在してないことも、永遠に決定されない。記録として何も残らんって意味。存在と、非存在の境界が無い、というか…」
「そんなことあり得んやろ…」
「せやから、俺たちが生き延びることができたんや。過去も未来も捨てる代わりに、永遠に不確定的な「今」を、存続させる。それが、「世界に楔を打つ」っていうことやった」
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