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世界と楔

第498話

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 永遠の生か、

 永遠の死か、

 そのどちらかにしか行けないとしたら、楓はどうする?

 私は死から遠ざかるために、「未来」を捨てた。

 何千年も生きてきて、わかったんだ。


 永遠の生は、永遠の死と何も変わらないんじゃないのか?

 生と死を区別するものはなに?

 終わりの見えない「今日」の中に存在する1秒は、変化のない「動」の中に佇む永遠の「静止」と、なにも変わらない。


 過去の自分の中に、歩ける「足」と「地面」を見つけても、生と死の境界を分かつことはできなかった。

 次の瞬間に進むための確かな距離は、私が歩いていける世界には、もう残されていなかった。

 どんなことがあっても、私たちは現実と向き合わなければいけない。

 人生に、やり直しという選択肢は無い。

 だから、「今日」の自分を見捨てた私に、「明日」なんて来るはずがなかった。

 この足で歩いていける場所はもう無いんだと、わかったんだ。


 それは「世界」も同じだった。

 クロノクロスネットワークは、「永遠の命」を欲する人間が作った、現在と過去を結ぶ人工的なゲートだった。

 父は「生」そのものを結晶化しようとした。

 永遠に、人間という「情報」そのものを過去の中に閉じ込め、死に脅かされない「時間」を作り出そうとした。

 けれど、所詮それは「死」を先延ばしにしたに過ぎなかった。

 先延ばしにしたどころか、世界が崩壊する事態を招いてしまったの。

 1995年のこの神戸の街で、数えきれないほどの世界が生まれた。

 生と死は混ざり合い、過去と未来は遠ざかって、——「昨日」は「明日」を追い越した。


 あの日から、雨が降り止まない雲が、世界を覆った。

 世界に隕石が落ちたのは、私たちが、雨が降る世界を、“否定”してしまったから。

 雨上がりの先にある生と死の境界から目を背け、走ることを諦めてしまったから。

 だから、私たちは「死」に呑まれた。

 永遠に光が差すことがない、時空の狭間に。
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