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世界と楔
第495話
しおりを挟む2025年。
アメリカ政府機関ITNは人間の意識をコンピュータ上に移送⇄保存できる画期的な通信デジタル技術の構想を、世界に向けて発信した。
「生命のデータファイル化」と題された発表論文は自らの意識や記憶を脳からコンピュータへと移動することで、人間の人格をデータ化し、「生命のデジタル化=肉体からの離脱」を図れるというものだった。
もちろん、この技術的な試みはあくまでまだ試験段階にあったもので、その経済的な実践も、産業的な試みも、1つのビジネスモデルとして確立されていない未知数な段階にあった。
それがいつ「社会」の日用性や地盤に影響を及ぼすものになるかは、先行きの見えない不透明な段階にさえあった。
が、『ITN』はこの時にすでに、脳とコンピュータとのシェアリングを元にして、別のチャレンジにも時間と研究を費やしていた。
それが、「個人のデータ」を『過去』に転送するというものだ。
この研究項目は、「個人時間のインターネット化」と題されていた。
人間の意識、及び脳によって構成された1つの人格をコンピュータ上に移植することは、「生命」という1次的な存在を維持する上での基本的な情報通信⇄データ管理を継続していく上では、莫大な技術開発費と時間が必要になる一方で、人間の脳によってアクセスすることができる世界の情報通信領域(情報共有に伴う位相領域)を、個人ベースで自由に行き来できる“個人データ上”での内部通信が、個人インターフェースに向けた「情報(過去から現在にかけての記録)」の「オンライン」を低コストで可能にできるかもしれないと模索されたことが始まりである。
より具体的な話をすれば、各個人の脳とコンピュータを繋ぎ、脳をメインフレームとしてコンピュータ上にデータをリンク(タイムシェアリング化)させる。
高分子ドッキングされた脳とコンピュータ上のデータリンク層に於いて個人の「データ」を解凍・展開し、人間の記憶や意識をデータグラム化⇄通信可能なプロトコル変換をすることで、個人の脳に堆積した4次元情報網(量子データ)をデジタル的に分解=再構成しようという試みだ。
人間の脳というデバイスを通じて世界の「情報」をコンピュータネットワーク間にオンライン化できるというのは、個人の脳に保存されたデータが別の時間軸⇄別のデータセンサへと相互リンクすることができるということに同義であり、この場合で言う「別の時間軸=別のデータセンサ」とは、個人ベース上での記憶=データ領域に於いて「連続することができる確率」を指す。
どういうことかと言うと、各個人ベースで保存された記憶やデータ領域を「個人のファイル」としてコンピュータ上に送受信することは情報通信網に於いて可能であるが、例えば、その「データ」はあくまで1つの経験則に過ぎず、「特定」の「時間」や「距離」として再抽出することはできない。
人間の脳を通じて拡張⇄展開することができるデータ位相領域はあくまで4次元的に連続することができる「過去・現在・未来」のエントロピー上限境界の位相時空間(領域)のみであり、量子的に1つの確率へと運動を収束することができる範囲⇄時間のみが、可逆的に対称となる。
この意味で言えば「個人」の「過去」はあくまで1つのリソースに過ぎず、部分的な量子確定値にはなり得ないため、人間の記憶や経験は多世界的に分布する複数の量子状態⇄確率変動値にしかなり得ないことが、情報ネットワーク上に於いて浮遊する局所的な量子グラムに収束することになる。
逆に言えば私たちは常に「世界」という「情報ネットワーク」を通じて量子レベルに連続することができる確率(⇄変動距離)になれるということであり、時間を巻き戻すことはできなくても、人間の脳を通じて4次元的に拡張された情報通信網に於いて、世界に堆積した情報プールに自由に行き来することができるゲートウェイになれることが、部分的に可能であるとしていた。
つまり、人間の脳によって開かれた情報通信網(⇄世界線上の情報オンライン回線)に、1つのデータグラムとして人間の意識を通信させることができ、人間の脳に堆積できる情報量的なベッケンシュタイン境界上に、量子レベルにまで落としたデータファイルを移送できることが、あくまで個人ベースではあるが、可能であるとした。
これによれば、人間は「自分の過去」にデータをシェア⇄展開できる。
個人の脳をホストとしてネットワークを構築し、個人データファイルを共有できるサーバーにオンライン接続できる情報処理システムをコンピュータ側で管理することで、個人の脳の中に堆積したデータファイル=情報領域を4次元的に[回折・相互接続=オンライン化]することができる。
これによって可能になるのは、人間の意識が「自分の脳=情報ネットワーク」を通じて4次元的に「データ=情報」をリンクさせることができるというもので、人間の脳の中に接続できる情報領域⇄データリンク層が、個人レベルの量子ネットワーク間に「テレポート」できるポケットが、分子レベルで開設できるという点だった。
より具体的に言えば、個人の脳をゲートとして、1つの意識を1つのデータファイルの中に共有することで、“現在進行形での4次元データ(現在の記憶)を継続したまま”、脳内の記憶領域にアクセスできるトランスポートを、1次的に接合し、意識(多時間上人格⇄記憶領域)を統合できるとしたのである。
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