雨上がりに僕らは駆けていく Part1

世界と楔

第４８８話

　空に浮かぶ「雲」を見てほしい。

　そこに、私たちの「存在」の曖昧さが映し出されている。


　雲は、過去と現在、また未来において、特定の形を持たない。

　空を見上げればわかるだろう。

　流れていく雲の形が、いつも、違う形をしていることが。

　雨はいつ降るかわからない。

　それは「晴れの日」も同じである。

　私たちという存在は、また、時間の「状態」は、“常に同じ形を持たない”。

　「常に」、というのは、文字通りの意味だ。


　先に話した「運命」と言う概念の転覆には、この「雲の流れ」のような流動性が、大きな役割を担っていた。

　雲の流動性の性質の中に見られるのは、「流れ」、——つまり乱流と呼ばれる性質が、その主な概念だ。

　 自然界には、「流れ」はいたるところに存在する。

　これらの流れの中には、時間・空間的に複雑なふるまいをするものが多く存在する。

　これらは一般に、流れの場を代表する無次元数である「レイノルズ数の値」によって特徴づけられる。

　レイノルズ数が比較的小さい場合には流れは規則的な層流であるが、レイノルズ数が極めて大きい流れは乱流とよばれ、複雑な模様をつくり出す。

　これは、初期条件に対する鋭敏な依存性の原因にもなっている。

　乱流はいたるところに存在するうえ、実態を把握することが難しく、統計力学・流体力学のおもな研究分野の 1 つとなっている。

　巨大な空間スケールの乱流の例として、天体表面の大気があり、また、核融合プラズマも乱流の一例であるが、ここでは電磁力が主たる役割を果たしている。

　乱流が高温プラズマの容器への閉じ込めを、容易ならざるものにしているのだ。

　乱流のシミュレーション解析では、これらの特徴をとらえるために、非定常計算を行う必要がある。

　また、現実を正しく再現するためには非常に細かいメッシュにわけた計算が必要となり、比較的小さいレイノルズ数の流れでも、ワークステーションやクラスター環境では計算資源がたりず、スーパーコンピュータで行っているのが現状である。

　乱流はさまざまな特徴をもつが、乱流のつくり出す代表的な構造が渦構造である。

　乱流は、平均流とよばれる時間的に平均された流速分布に、いろいろなスケールの渦運動が不規則に重ね合わさったものと考えることができた。

　また、「不規則性」も重要な性質だった。