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風の憧憬
第403話
しおりを挟むでも、最後の最後まで戦ってこれたのは、ストレートのサインを出す、彼がいたからだった。
“ここに来い“
ミットの下で出す、グーのポーズ。
いつもそうだった。
首を振っても、サインを変えない。
“信じろ“
って、ただまっすぐ見つめてきてた。
融通の利かない頑固者。
バカって言っても言うことを聞かない。
でも、逆にそれが救いだった。
彼がいなけりゃ、とっくに野球を辞めてた。
諦めそうになったら、いつも、彼の姿が思い浮かんだ。
いつでもバカ正直な、気の利かない声が聞こえた。
きっと、ゴールするために、ストレートを投げていたわけじゃない。
現実の中に流れるスピードの中に、生きていたかった。
逃げたくなかったんだ。
「今」に届くためには、きっと、目の前の現実に立ち向かっていくしかない。
それをわかってた。
言い訳なんてしたくなかった。
自分が女だから、なんて、ただの言い訳だ。
でもそうじゃない。
ボールを握ることに男も女もない。
信じたい心があった。
辿り着きたい「明日」があった。
試合が終わっても、人生は続くんだ。
そのために今、自分ができること。
“下を向いている場合じゃない”
そう思える視線の先に、彼がいた。
18.44mの距離を挟んで。
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