雨上がりに僕らは駆けていく Part1

キミがいる街

第３７９話

　夜になって、大学を出た。

　帰りも亮平が自転車を漕ぎ、家まで送ってくれた。

　これからどうすればいいかわからなかった。

　おじさんはいつでも来ていいとのことだったが、しばらくなにも考えられなかった。

　亮平も同じだった。

　帰り道、お互いになにも喋れなかった。

　私は私で色々思うことがあったし、彼もきっと同じだったんだと思う。

　キーちゃんが未来から来ていること。

　そのことを、この世界の彼は理解できていなかった。

　橋を渡り、市街地に戻った頃に、彼は尋ねてきた。


　「…千冬に会ったって？」

　「え？」

　「さっき、目が覚めた時に言ってたやん」

　「あぁ…」

　「千冬は生きてるん？」


　なんて答えるのが正解なんだ…？

　確かに会った。

　会ったけど、会ってない。

　うまく説明ができそうになかった。

　色々こんがらがって、パンクしそうだ。

　でもわかったんだ。

　キーちゃんの記憶が、頭の中に丸々残ってる。

　その「記憶」の中に、この世界の亮平もいた。

　「私」も、同じく。


　神戸の街は、日常の中に動いている。

　私たちを乗せて。

　三ノ宮商店街に、駅前のデパート。

　華々しい外観のパチンコ店。

　日差しが差し込む、立体駐車場のスロープ。


　時間の流れる方向に耳を当てても、「今日」がいつかを、確かめることはできない。

　全部嘘だと思った。

　色白な亮平も、北側にはなかった家電量販店も、大好きだった週刊誌の『セミはおやつです』が、存在していないことも。


　ぎこちなく自転車を漕ぐ、彼。

　いつもとは違う、洗濯物の香り。

　キーちゃんは生きてる。

　でもなぜか、それを言葉にすることはできなかった。

　それを「言葉」にしても、きっと、「今」という時間を、切り取ることはできないから。