雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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セカンド・キッド

第377話

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【A2008-01-01 10:42:06】




 「セカンド・キッド」というのは、本来この世界には存在しなかった人間たちのことである。

 「本来存在しなかった」と言うと、へんに聞こえてしまうかもしれない。

 しかし事実その言葉はその通りの意味で、「セカンド・キッド」の対象となるものたちは、元々この地上のどこにも存在しない人たちだった。

 「多世界解釈」という物理学の理論はご存知だろうか?

 多世界解釈とは、量子力学の観測問題に於ける1つの解釈である。

 プリンストン大学の大学院生であったヒュー・エヴェレット3世が1957年に提唱した定式を元に、ブライス・デヴィットによって提唱された。

 ブライス・デウィットは、ヒュー・エヴェレットの論文に世界の分岐の概念を付加して、多世界解釈と名付けた。その後、Heinz-Dieter Zehによって提唱されたデコヒーレンスにより、世界の分岐の理論付けがされた。

 清水明は、自分自身がどれかひとつの分枝のみを知覚するとする現代多世界解釈は射影仮説と等価なことを仮定しており、コペンハーゲン解釈を言い換えているだけだとしている。

 コリン・ブルースは、多世界解釈は非局所的効果を含まないとしているが、森田邦久は、世界全体が瞬時に別れるならそれは非局所的な効果であるとしている。和田純夫は、多世界解釈は概念的には確率と無縁になるとしている。


 このエヴェレットの多世界解釈のように、局所的には、世界には枝分かれした事象が「現在」という時点⇄地点に於いて存在していることが提唱されていた。

 これはたんに複数の世界が存在しているというのではなく、「複数の選択」が現在に対し存在しているのに対して、シームレスに時間⇄距離を移動できる範囲が、常に99%の「現在⇄結果」を連続していることを、現在進行形でいつでも通行することができる範囲と並行して、1対1でことを意味している。

 簡単に言えば、複数の選択肢が現在とその距離に対していくつかの時間の向き⇄運動の幅を同時に持てることを意味しており、現在に対して常にことを、ある一点に於いて収束できるとしている。

 言い換えれば、現在という時間の流れの中に複数の選択肢が、連続できるとしており、この意味で「複数の未来形が同時にある一点に於いて発生し得る可能性」があることを、「現在」に至るまでに1対1にできるとしているのだ。

 先ほど言った「元々この地上のどこにも存在していない人たちだった」という言葉の内容にある事象の『並行性』は、現在という時間順序的な物事の発生確率に対して複数の状態を同時に重ね合わせることができる「乱流値」のことを表しており、この意味で「現在」とは複数の「過去形」であり、複数の「未来形」であることが、常に同じタイミング⇄距離を保てることを教えている。

 すなわち、私たちが普段当たり前のように認識し、1つの時間の流れとして認識している「時間」とは、実は[複数の確率⇄いくつかの事象の発生率]が1対1で重なり合った状態であり、その状態に対してを、現在に至るまでに1であることが、ある1点に於いて継続できるとしているのである。

 (そしてその意味で、世界には「実際にそうならなかった=タイミングが違えば違う結果になっていた」という物事の変化量が、現在という時点に対して「1つの量子情報」を壊さずに、シームレスに情報(ユニタリー性)を伝播できるとしているのだ。※「元々この地上のどこにも存在していない人たち」というのは、部分的な側面で言えば、まだ「存在する」という決定量に到達していない確率の分配値を、過去から未来にかけて連続している状態、と言い換えることもできる。)


 1つの「時間」に対して1つの「結果」が存在しているように思われがちだが、実はその逆で、1つの時間に対して99%サイコロの目を揃えないことができる1回を、現在に至るまでにこそ連続することができる「範囲」が、現在に対する「エントロピーの上界値⇄情報量Iの上界値」であることが示唆されている。

 つまり、「世界」には1つの「時間」の中に「100%決まっていない確率」が現在進行形で連続していることが、過去から未来にかけて決定的な境界を定めていないことと並行して、常に同じタイミングでサイコロを振れることが、予想されている。

 「セカンド・キッド」とは、まさしくそう言った1つの時間上の複数の結果に向けた確率振幅を、もっとも最小の値にまで広げることができる連続体濃度として、シームレスに連動することができる「過去・現在・未来」の波動関数=射影公準を映し出している「影=状態ベクトル」なのである。

 「世界にはこうなる未来⇄過去」もあったという1つの事態としての部分性⇄局所性を語る上で、あらゆる時間と運動の量子的な多様性は欠かせない事項であり、「セカンド・キッド」たちは、そうした多世界的な解釈を物理的な視点で語る上で、もっとも重要な役割を担う可能性を持つ。

 言ってしまえば、彼らは世界に於ける「量子時間」そのものであり、また、すべての時間とその距離の中に漂う「確率⇄99%の事態」そのものであったのだ。

 彼らが生まれたきっかけは、1995年に起きた「タイム・クラッシュ」が原因だった。

 世界の「運命」が変わったのはあの時からだ。父、——桐崎雄一朗が、「過去」に戻った「あの日」から。


 「世界」は、あれから嘘をついている。

 たったひとつの嘘。

 それでいて、やり直すことができないひとつの過ちを。


 1995年 1月17日 5時41分22秒


 この「時間」から、「過去」と「未来」を結ぶ境界は、事象の地平面の中に沈み始めた。

 本来存在しなかったはずの結果や出来事が、世界に生まれ始めたのだ。

 時空の全てを、歪めてしまうほどに。
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