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セカンド・キッド

第370話

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 「目が覚めたかい?」


 眩しい蛍光灯のライトが視界の中に入ってきた。

 どうやら、長い間眠っていたらしい。

 おじさんの声が聞こえ、頭痛のする頭を押さえた。


 「千冬の「過去」を、知れたかい?」


 起きたばかりで、思うように言葉を追えなかった。

 ただ、なにを言われたのかはわかった。

 だから答えた。

 その「言葉」が、正しいか正しくないかはさておき。


 「…キーちゃんに、会いました…」


 きっと、…いや多分、私の言っていることは間違っている。

 そう思えたのはきっと、それが「現実」でも、「夢」でもないということを、意識の中心に感じたからだった。

 頭のずっと、奥深くで。


 研究室に戻った後、キーちゃんのブログをもう一度見た。

 「未来」から来たという、彼女の記録を。

 パソコンのデスクトップに表示されたゴシック体の文字列は、数百年から数千年の時間と距離の中から、届いたメッセージでもあった。

 50年後から来た亮平と同じように、何度も自分の過去を行き来している、クロノクロスネットワークの接続者だった。

 ネットワークを介し、色んな「時間」を旅していた。

 最初のアクセスを開始したのは、“あの日“だった。

 大学の本館にある研究所に向かったんだ。

 隕石衝突後の夜、巨大な地震に襲われ、日本も危機的状況に陥っていた。

 ポートアイランドの地下に建設していた緊急用の地下施設に家族を預け、量子コンピュータが稼働する制御室へ急いで向かった。

 電力の供給がまだあるうちに、過去に情報を送信しなければと思い立ったんだ。

 クロノクロスと、それにまつわるネットワークシステムは、すでに一般公開され、実用可能な時代になっていた。

 研究機関の1つだったポートアイランドの大学内にも、そのシステムの運用に際する設備と環境が整っていたため、ネットワークに接続するのは容易かった。

 未来で小惑星が落ちる。

 そのことを伝えようと、プラグを差し込み、過去の自分に情報を送信した。

 指定した時間は、約半年前の冬だった。

 小惑星が降ってくることを事前に伝えれば、探査機を用いるなどして軌道修正を実施し、衝突を免れるのではないかと考えたからだ。

 けれでも、実際はうまくいかなかった。

 キーちゃんはそれから何度も過去に情報を送り、2083年7月23日の結果を変えようとした。

 ブログに書かれている断片的な言葉たちは、さまざまな時間を移動していく中で、多くのことを経験し、感じてきたことの全てだった。

 ページは何千ページにも及んだ。

 それがいつの時代で、どの場所に属していたものかは、はっきりとはわからなかった。
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