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【第6章】バッテリー

第361話

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 「なぁ、魔球思いついたかもしれん」

 「魔球?」

 「見てて」


 バックネット裏のスペースに自転車を停め、パンパンとボールをグローブの中に出し入れしながら、キーちゃんは一足先にグラウンドに入った。

 ふぁぁと、あくびをかきながら、亮平は後に続いた。

 「げ、帽子忘れた」と、彼は不服そうに手を翳していたが、日差しは容赦なく降り注いだ。

 キーちゃんの体はもう出来上がっていた。

 ほんの少しストレッチをしただけで、ぶんぶん腕が回っていた。

 「行くで!」という声が響く。

 それに合わせるかのように、キャッチャーミットを持ち上げる影。

 慌てる彼に合わせる素振りもなく、キーちゃんは思いっきり腕を振った。

 バシィッ!

 という、乾いた音。


 「先にストレッチさせてくれん?」

 「そんなもん、とっくにできとるやろ」

 「俺はまだ」

 「さっさとしぃや」


 完全にオフモードの亮平は、なにをするにも退屈そうにしていた。

 それとは対照的に、キーちゃんは活発だった。

 それはいつものことだ。

 野球ボールを握らない日がなかったくらいだ。

 女子高生の日常とは無縁の、ミズノのアンダーアーマー。

 トレーニングウェアを何着も持ってるのは、彼女くらいだった。

 同級生は皆、肌が焼けることさえ気にしているというのに。


 「すごくない!?このスライダー」

 「まあまあ」


 今日は花火が上がる日だった。

 みなとこうべ海上花火大会。

 亮平は今年、アキラと見に行く約束をしていた。

 中3の夏から、2人は付き合っていた。

 アキラも亮平のことが好きだということを、キーちゃんは知ってた。

 だから間を取り持って、去年の花火大会に一緒に行けと、亮平に命じていた。

 その夜だった。

 2人が付き合い始めたのは。
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