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少年とヒーロー
第338話
しおりを挟む「行くんやろ?甲子園」
キーちゃんは、言葉を噤んだ。
…そりゃ、行きたいけど。
亮平の言ってる言葉は、現実から一番遠い場所にあった。
理屈もクソもない、ただの願望。
そんなもんでどうにかなるなら、苦労しない。
あんたもわかってるでしょ?
気持ちだけじゃどうにもならないって。
『つべこべ言うな』
彼は、その一点張りだった。
自分の投げる球を信じろと、ただ、ミットを構えた。
黙って投げてこいと、キーちゃんの目を見て。
なんで自分がストレートにこだわってるか、それを「理由」として、一度も考えたことはなかった。
ただ、憧れてた。
綺麗な尾を引く一本の線に。
逃げも隠れもしない、まっすぐ伸びていくストレートに。
亮平は知ってた。
大事なのは数字じゃないって。
もちろん、「結果」が求められる世界なのも、事実だ。
けど、それよりもずっと、大切なこと。
今という一瞬に、信じ切れる心があるか、どうか。
ど真ん中に構える亮平。
「世界を変えるぞ!」って、それが、彼からの「サイン」だった。
「海に行くで」
そう、言ったことも。
キーちゃんの「記憶」を通じて、わかったんだ。
二人が、“どんな“関係だったか。
そしてその「時間」が、どれくらい昔のものだったか。
二人が見ていた空の色は、2016年の夏から、ずっと変わっていなかった。
キーちゃんは、亮平が亡くなったあの日以来、もう2度とすれ違わない「時間」を追いかけてた。
「空」に託してたんだ。
かつて追いかけていた「未来」を。
手を伸ばした先に、掴める”なにか“。
それは雲のように、形を持たないものでもあった。
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