雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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夏空

第323話

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 バスに揺られながら、通り過ぎていく街の景色。

 ガヤガヤと騒がしいバスの中で、言いようのない緊張感を感じた。

 これから始まること。

 その未来への期待を、どこかに。


 3年生にとっては、最後の大会。

 勝っても負けても、この夏が最後だ。

 よくテレビで見てたんだ。

 グラウンドにサイレンが鳴って、かんかん照りの太陽。

 滴る汗に、カキーンという音。

 テレビの向こうで、みんな白球を追いかけてた。

 スタンドの歓声と、鳴り響くアフリカン・シンフォニー。

 瞬きもできないほどの緊張感に、泥だらけのユニフォーム。

 あの場所で戦っている人たちにしか、わからないことがあると思う。

 甲子園球場の土の上に立ち、夢に向かって、突き進む。

 がむしゃらに走って、全力で戦って。

 勝つか、負けるか。

 単純に考えたら、すごくシビアだよね?

 勝負は一回きりなわけだし、やり直しはきかない。

 でもだからこそ皆、一夏に向かって、頑張っているのかもしれない。

 だって今しか、一緒に戦えないわけだし。


 球場に着くと、信じられないほど多くの人だかりだった。

 全国から集まってきた高校球児に、駐車場を埋め尽くした大型バス。

 みんな体が大きくて、いかにも強そうな感じだった。

 お祭りムード一色の、甲子園球場。

 キーちゃんと2人で、この西宮まで、自転車で来たことがある。

 いつか、この“舞台“で投げる。

 そう言ってた。

 160キロのストレート投げるというセリフも、野球に対する熱意も、きっと冗談なんかじゃない、って、その時に思った。

 「私」の世界で、どうしてキーちゃんは、投げるのをやめたんだろう?

 小学校を卒業して、アメリカに行って…。

 私は私で、キーちゃんがいなかったからバスケを始めた。

 他にやりたいこともなかったんだ。

 でも、キーちゃんは違う。

 「私」がいた世界のキーちゃんも、この世界のキーちゃんも、同じ「夢」を持ってた。

 誰よりも速いスピード。

 それを手に入れようと、空に手を伸ばしてた。

 なのに、日本に帰ってきてから、「野球」は遊びになった。

 別にそれが不自然だとは思わなかった。

 むしろ、本気で野球を続けることの方が、なんで!?って、当時は思ったかもしれない。

 だけどこの世界のキーちゃんは、野球に対して、どこまでも本気だった。

 日記に殴り書きされた、その日のトレーニングの回数。

 ページがくしゃくしゃになるほど、びっしり書かれた箇条書きの数字。

 『「夢」を現実に。』

 それが、いくつかのページに添えられてた。

 何度も、自分に言い聞かせるように。

 この世界のキーちゃんを知って、逆になんで?って思ってしまった。

 それくらい、同じはずの2人の心の距離に、差があった。

 「夢」に対する、「想いの差」というか…
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