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「今」を越えられるスピード

第314話

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 夏の大会の決勝に来なかったあんたを、今更責めるつもりはない。

 きっぱり、忘れようと思ったんだ。

 期待するだけムダ。

 どうせ、帰ってこない。

 時間が全てを洗い流してくれると思った。

 綺麗さっぱり、なにもなかったように。


 「俺は、待ってるから」


 「私」がここにいるとは知らず、キーちゃんに向かって、透き通った眼差しで彼が言う。

 なんの悪びれもなく。

 清々しい声色で。


 待ってるのは私だよと、そう言いたかったが、なにも言わなかった。

 心の中で、自分に言い聞かせてたからだ。

 待つのはもうやめた、って。

 亮平は、もう帰ってこないんだと。

 もちろん、その言葉を、この世界の「彼」に言っても仕方がないことも、わかってた。




 近場のネットカフェで、夜を過ごすことにした。

 しばらく河川敷にいたけど、野宿はやっぱり嫌になったから、泊まる場所を探そうってことで街に戻った。

 神戸に比べると、やっぱり少し田舎だ。

 でも意外だった。

 街の中を歩いてると、思ったより発展してて、なおかつ広い。

 この前も来たけど、前回はゆっくり街を歩けなかったから、間近で街を見れなかったんだ。


 岡山も悪くないね?


 つかず離れずの彼との距離。

 街中を走る、赤色のヘッドランプ。


 亮平は今、なにを考えてるんだろうか?

 河川敷を出てから、思うように会話ができなかった。

 へんに萎縮してしまったっていうのもある。

 蘇った記憶の中に、忘れていた感情があったから。


 知らない景色の中で、記憶の中に重なる彼の背中。

 声をかければ、振り向いてくれそうだった。

 キーちゃんじゃなく、「私」の声に。

 それで、話しかけたんだ。


 「ねえ」


 彼は振り向いた。

 掠れそうになるほど、うわずった声に。

 形容し難いほどに複雑な感情が、風の中を泳いだ。

 穏やかとは言えないほど、少しだけ強い風の中に。

 ここは「未来」なんでしょ?

 それなのになんで、亮平は昔と同じような目をしてるのだろうか。


 「なに?」


 彼の返事に返せる言葉が見つからなかった。

 私が知ってる「亮平」は、ここにはいない。

 会場に来なかったことを問い詰めても、なんのことかわからないだろう。

 それにこの件については、一応、未来の亮平に話してる。

 根に持つつもりはないし、いちいち掘り返したくもない。

 話したって、もうあの「時間」には戻れない。

 仮に戻れたとしても、なにかが変わるとは思えない。

 もう、終わったことなんだ。

 過去は過去。

 今は今、だ。



 そうでしょ?


 
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