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現在の岸辺

第300話

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 「今夏休みって言ったよな?」

 「そうやで?」

 「岡山に行かん?」

 「は?なんで??」

 「見たいもんがあんねん」

 「…見たいって、なにを?」

 「言ってもわからんやろ」

 「場所くらいわかるやろ」

 「場所…?うーん。「私の家」」

 「岡山に家なんかあったか?」

 「ある」

 「へー」

 「せやから一緒に行こ」

 「…いや、なんで?」

 「あーもう、うだうだ言ってないでさぁ」


 一々事情を説明するのもめんどくさかった。

 キーちゃんと入れ替わってる、なんて、説明できっこない。

 そもそも、「私」がどこにいるかもわかってないのに、今が「どういう状況」かを誰かに話せるほど、整理もできない。

 亮平は、「私」のことを知らない、っていうし。


 亮平の家に戻って、身支度を整えた。

 リュックサックに必要なものを入れ、スケジュールを一緒に考えた。

 今は7月25日。

 夏休みはまだ1ヶ月近くある。

 3泊くらいを目安にして、寝る場所は着いてから考えよう。

 ホテルに泊まってもいいけど、高いとヤダしね。

 季節的に、最悪野宿でもいいかなと思った。

 岡山に家があるかどうかもわからないから、ハッキリとした予定を組めない。

 とりあえず行ってみるだけ行ってみよう。

 何かわかるかもしれないから。


 「待て待て待て待て!」

 「ん?」

 「ん?やないわ!泊まるってどういうこと!?」

 「行ってみんと見つかるかわからんのんやって」

 「なんの話をしとんや?家に行くんやろ?」

 「そうやで」

 「見つかるかわからんって、どういう…」

 「昔行ったことあるだけやから、記憶が曖昧なんや」

 「あー…」

 「とりあえず行ってみて、何日か見て回るつもり」

 「…正気か?!」

 「なんで?」

 「3泊するって言ったよな」

 「あー、まあ、そこはテキトーやから」

 「いや、そこやなくてやな…。泊まるって、ほんまに言うとるん!?」

 「やから、最悪野宿や言うてるやろ?」

 「…えっと、そこも問題やなくて…。いや、問題は問題なんやけど…」


 なんか、亮平の様子がおかしいな。

 いつもと違う、っていうか、変な距離感を感じるんだが…、私だけか?


 「いいから行くで!」


 1人だと心細いんだよ、とは、面と向かって言えなかった。

 他に頼れる人はいないし、キーちゃんはいないも同然だから、頼ろうにも頼れない。

 それに1人より2人の方が、手分けして探せるでしょ?

 無理矢理手を引っ張った。

 そんな嫌そうな顔をするな。

 どうせ夏休み中暇でしょ?

 宿題だって、帰ってからやればいい。

 だからついてきて。


 電車に乗ったのは昼過ぎだった。

 乗るだけ乗って、それから色々考えようと思った。
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