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【第5章】失われた時の中で

第285話

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 おじさんは文字を交えながら、優しく説いてくれた。

 だけど、内容が内容だけに、思い通りに納得できなかった。

 そのうちに、亮平と私は“ある部屋”に連れられた。

 13号館の最上階にある、学生でも入れないようなところだ。

 幾つかの指紋認証装置と、網膜スキャンを介しながら、ほとんど無機質な、不穏な空気の漂う部屋にたどり着いた。

 その部屋の前には、「クロノプロジェクト」と題されたプレートが貼られていた。

 中に入り電気がつくと、地面に流れた大量のコードが、床上に設置されたコンテナのような機械に向かって繋がれていた。

 その機械は1つ1つ2メートル以上の高さがあり、黒く、重量感がある。

 なにに使われるものかはわからない。

 それが、何十個もズラッと並べられ、部屋のほとんどのスペースを埋めていた。


 「さあ、こっちへ」


 と案内され、奥に進んだ。

 鉄の重たいドアを開けた先に現れたのは、部屋の真ん中に設置されたイスだ。

 …いや、それはイスというよりは、やけに“機械的な“物体だった。

 椅子の後ろにはコードが散乱し、太いパイプのようなプラグが、ボックス式の装置に繋がれている。

 イスの横にはコンピュータが設置されていて、モニターが「数台」。

 イスの頭頂部には人の頭程度のおわん型の被せ物が電気回線と繋げられており、クラゲを逆さにしたような夥しいほどの配線が、表面に取り付けられていた。


 「…これは?」

 「これは実験機材の一部だよ。人とコンピュータが電気的に繋がれる装置の、試験段階にあるものだ」


 脳の神経と機械とを直接繋ぐために必要な装置。

 これが、未来では「クロノクロスネットワーク」というものになるらしい。

 もっとも、その心臓部分は、量子コンピュータと呼ばれる巨大な機械になるみたいだけど。

 色々教えてくれた。

 電気的に脳とコンピュータを繋ぐことで、繋がれた人間の脳から、「個人情報」をダウンロードすることができる。

 その「情報」がその人の人格や記憶、量子媒体となって、脳の中にある量子データベースにアクセスしたり、コンピュータ上に保存、変換できる。

 ただ、脳の神経と直接触れなければいけないため、かなり危険を伴う。

 そう説明しながら、「椅子に座ってみるかい?」と言ってきた。


 「…え!?いやいやいや!危険なんじゃ!?」

 「ハハッ。それは直接コードを繋いだ時だけだよ。この装置は、まだまだ他にも使い方があるんだ」

 「…他にも?」

 「特殊な電気信号を送る通信用のヘッドギアを装着すれば、外部から情報を得ることができる。簡易的にはなるがね。他にも、脳になんらかの異常を抱える人に、特定の部位に刺激を与えて、細胞を活性化させることも可能だ」

 「…えっと、…つまり?」

 「千冬の記憶を、——彼女の脳内の電子ファイルを、コンピュータに読み込ませている。”キミ”なら、感じ取れるのではないかと思ってね。千冬の脳内のシグナルに同期し、解析したシナプスアルゴリズムを電波として受信することで、もしかしたら、「彼女の世界」を見ることができるかもしれない」
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