雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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第233話

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 家があるはずの土地には、全面に明るめの木で板張りを施した、平家のガレージハウスが建っていた。

 鋼板ですっきりと仕上げていたはずの、築2年も経たない「隣の家」は、昔のまま、黒い瓦の木造建築のままだった。

 その光景は、「奇妙」以外になかった。

 あるはずのものと、そこに“無い”もの。

 「時間」や「空間」がどこにあるのかがわからなくなるような、チグハグな風景。

 知っている絵に、絵の具を塗りたしたかのような違和感。

 写真の中に合成した、——仮想空間。


 振り返り振り返り、何度も見直してしまった。

 すぐ隣にあったはずの世界が、知っているものと知っていないものとの境界線上に、新しい「今」を連れて来たから。



 …どこだ…


 ここは…



 呆然とする私に、亮ママは言った。

 家はどこ?

 と。


 指を差したんだ。

 ここにあったって。

 私が産まれる前からあったはずの古い木造建築が、確かにこの区画に…



 「…さっき岡山から来たって言うてなかった?」

 「…そう…ですけど、それは…」


 岡山から来た。

 見たこともない家で目が覚めて、バスに乗って、駅から快速で…


 「キミの親は知ってるん?」

 「…なにをですか?」

 「この街に来たこと」


 家族は知らない。

 家を出て、神戸に行くとまでは伝えたけど、詳しいことは伝えていなかった。

 友達に会いに行く、——本当にそれだけだったから。


 「…出かけてくるとは言いました」

 「…そっか。ほな、まぁ、どうする?…駅まで送ろうか?」


 駅に行って、…どうする?

 岡山に帰る?

 …いやいや、ここに来たのは、そもそも…


 「キーちゃんに、…会わないと」


 さっきの話を聞いてなかったわけじゃない。

 行方不明。

 その事実を、頭の中に押し込めようと努力はしてる。

 だけど、そう簡単じゃなかった。

 この街に来れば、絶対に会える気がしたんだ。


 「…とりあえず今日はウチに泊まりな?キミの話も、まだ聞きたいし」


 亮ママは、私を連れて家に帰った。

 帰るとパジャマを用意してくれて、お風呂までためてくれた。

 おまけに、個室まで用意してくれて…


 …だけど、眠れなかった。
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