雨上がりに僕らは駆けていく Part1

【第４章】アナザーワールド

第２１８話

　亮平はもう二度と、私には振り向かないだろう。

　最初の世界で私たちが結ばれていたのには、「理由」がある。

　世界一のピッチャーになりたかった私。

　世界一のバッターになりたかった亮平。

　私たちは生涯のライバルだった。

　生涯の、…親友だった。


　あいつはわかってたんだ。

　私が「野球」を理由にして、自分の人生から目を背けたこと。

　「過去に戻りたい」という一心で、未来を捨てた時間。

　後悔があるわけじゃなかった。

　…でも、あいつはわかってた。

　互いにそうと確かめ合うことは、なかったけれど。


　最初の世界で、私たちは結婚した。

　学生時代は、まさかそんな関係になるとは思わなかった。

　突然の告白にビビる私。

　いつもにはない真顔で、恥じらいもなく畏まった言葉をぶつける亮平。

　『将来を共にしよう』

　そんな「現実《リアル》」が、異常気象のように突然降りかかるとは思わなくて。


　私たちが同じ時間の中にいられたのは、私がまだ、「私の人生」を歩んでいた時だった。

　あの頃、同じ空の下で、高々と頭上に広がる「青」を追いかけてた。

　雨の降る予感さえしない、真っ青な世界を。

　当時私は、どこにでも行ける気がしてた。

　どんなスピードにも、追いつける気がしてた。

　自分を信じることだけが、世界の全てだと思ってた。

　現実の外側に飛び出せる時間が、この指の先にあると思ってた。

　それをあいつは知ってたんだ。

　「世界一のピッチャーになりたい」

　と願う私の心が、まっすぐ未来を見据えていたことを。


　だから、…だからもう二度と、あいつは私に振り向かない。

　「未来」と、「自分」を捨てた、私には。