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第213話

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 「…おいおい、どこ行くんや!?」


 亮平の手を引っ張り、キッチンの方の勝手口から、外に出た。


 「…とにかく、ここを離れんと…!」

 「離れる??…何でや!?」

 「…いいから!」


 説明してる時間はない。

 次に何が起こるかはわからない。

 わからないけど、ここにいちゃいけないと思った。


 「裏から街に出よう」

 「…街!?何言うとんねん」


 手を引っ張り、勝手口から裏庭に出た。

 亮平の足取りは重く、力を込めないとうまくついてきてくれない。



 「…待て待て!説明せぇ!」

 「あーもううるさい!後で言うから、今はついてきて!」


 時間がないと思った。

 早くこの場所から離れないと、取り返しがつかないことが起きる。

 そんな予感がした。




 …————パンッ!



 「うわッ…!!」



 裏庭の塀を跨ぎ、敷地の外に出ようとしていた矢先だった。

 家の通用口から現れたキーちゃんが、私たちを追うように走ってきた。



 「…な、なんや!?」


 塀の壁に飛んできた銃弾を見て、驚く亮平。

 薄暗くなる夕暮れ時の外の景色。

 こっちに向かってくる「少女」が誰か、最初はわからないようだった。


 「…誰や、アイツ…」

 「…早くこっちに!!」


 私は無我夢中だった。

 早く逃げなきゃ、そればかりが頭を掠めた。

 塀を飛び越えたあと、庭先の茂みを伝って公道に出た。

 あとは走った。

 後ろを振り返ろうとは思わなかった。



 …ハアハアハアハアッ!



 一体どれくらい走ったのかわからない。

 向かう場所も決めず、できるだけ安全な場所を目指そうとした。

 ガードレール沿いの曲がり角、光の灯る住宅地、須磨浦海岸の夜の帷、遠くに掠れていくひぐらしの鳴き声。

 スニーカーのヒモが解けそうになる。

 靴底は今にも破れ、硬い地面の上で穴が開いてしまいそうだ。

 それぐらい激しく動いた足は、100m、200mと続いた。

 広い道を避け、絶対に追いつかれないようなルートを選んだ。




 「…ハア、ハア、ハア…ッ」


 走っている道中で、亮平が聞いてきたんだ。

 「もしかして今の千冬か?!」って。

 私は頷くだけだった。


 どうして逃げているかの理由も、走っている今の状況も、全部後回しだった。

 丘を下り、地元のスーパーの中に逃げ込んだあと、店の奥に身を隠しながら、話した。

 今の「状況」を。
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