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第206話
しおりを挟む亮平の家についたあと、コタツがある部屋に直行した。
外は寒すぎた。
急いでコタツのコンセントをブッ刺さないといけないほどに。
「なんか食べるか?」って聞いてきたから、「テキトーに」と言ったらたこ焼きが出てきた。
ネギ盛りだくさんの。
「マヨネーズいる?」
「いる!!!」
小皿とマヨネーズと、七味。
気が利くじゃないか。
テレビをつけ、早く温まってくれとコタツに物申す。
くつろいでいると婆ちゃんが顔を見せてきた。
「あら、カエちゃん。いらっしゃい」
「お邪魔してます!」
病院で会った時とは全然違う顔色に、心がホッとした。
そりゃそもそも「時間」が違うから、違って当然なんだけど、やっぱり婆ちゃんが悲しんでる顔は見たくない。
元気そうで良かった。
「…話の続きなんやけど」
亮平がキッチンから戻ってきた。
戻ってくるなり、尋ねてきた。
私の「話」を、全部信じてくれるみたいだった。
「楓がいた9月10日の「俺」は、“未来から来た俺“やなかったんやな?」
亮平が疑問に感じていたことは、事故に遭った「自分」が、未来の干渉を受けていない自分であったかどうかの「状態」だった。
「私が知ってる亮平やったと思うよ」
ややこしい言い方だけど、ようするに未来からもどこからも来ていない「純粋な亮平」。
こういう場合、どういう言い方をするのがいいのだろうか。
タイムリープする前の亮平?
過去が変わる前の亮平?
…元々の世界の、亮平?
ま、とりあえず、「元々の世界の亮平」ってことでいいのかな?
「そう…なんやな」
「なんかまずいことでもあるん?」
「…いや、もしそうなら、楓は”どこから“来た、って話になるんや」
「は?」
「せやから、もし事故に遭った俺が「元々の世界の俺」やったとしたら、原理的に不可能やろ?」
「…なにが?」
「”9月10日に、俺が事故に遭う“っていう世界を知っている「楓」が、「元々の世界の俺」と出会うっていうことがや」
「…えっと、よくわからんのやけど」
「…今、「俺」に会ったって言うたやろ?事故に遭う前の「俺」に」
「うん」
「でもそもそも、そんなことは原理的に不可能やろ?“俺が事故に遭うという状態を知る“には、一度未来を知る必要がある。けどお前は、”未来を知らんはず”や」
「…え?どゆこと?!」
「俺は「過去の俺」に戻ってきた。それは間違いない。せやから、未来で起きる可能性の『1つ』についてを、知ってた。楓が事故に遭うということや、バイク事故のこと。…けど、楓は違うやろ?ここにおるお前は、「未来の楓」でもなければ、「過去の楓」でもない。「現在の楓」や」
「…??」
「…ええか、異なる時間軸の情報を共有できるのは、決まってルールがある。過去から未来に行くことはできん。それは「ひとりでに熱くならないコーヒー」に例えた通りや。けど、一度保存された情報内を、個人間の量子レベルで自由に行き来することはできる。それが「現在」から「過去」に行くっていうことや。ここまではわかるな?」
「…うーん、まあ」
「つまり、楓が「過去」を知るには、「現在」の外側に立たないといけん。ようするに、9月10日に起きた「出来事」よりも先の時間に、存在していないといけん」
「…いや、っていうか、亮平から聞いたから、事故が起きるってわかったようなもんなんやけど」
「それが不可解なんやって。元々お前が事故に遭ったって「出来事」自体も、腑に落ちんかった。もし楓が言っとることが事実なら、お前は「タイムリープ」しとることになる」
「いや、せやから、そういうことやろ」
「…いやいや、そんなのあり得んのんやって…。大体、タイムリープっていうのは、AからAに戻る、あるいはAからAに進むということや」
「…は?」
「今楓が俺に言ったように、「過去が変わる前の元々の世界」と、俺が50年後から来た、「過去が変わったあとの世界」とを行き来しているとしたら、それは「異なる世界線」をたった1人の人間が行き来してることになる。例えるなら、コンセントを差さずに電気を繋げるようなイメージや」
「…コンセント??」
「仮にタイムリープできるにしても、それが可能になるのは、1つの世界線、——1種類の時間軸に於いてのみや。つまり、過去が変わる前と変わった後の世界を、”同じAの世界線として”考えることはできん。…けど、今の話を聞く限りやと、過去が変わる前の世界「A」と、過去が変わった後の世界「B」の両方を、楓は行き来してることになる。それは「タイムリープ」どころの話やない。異なる世界線に“穴“を開けて、無理矢理移動してるようなもんや。一枚の10000円札を、分子レベルでも全く同じものに複製する。そんな非常識なことが起こってるって、言いたいんやが…」
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