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空と海と、トンネルの向こう
第194話
しおりを挟むそのノートに書かれた言葉を、理解することはできなかった。
でも、1つ1つの単語の中に、気になる言葉が含まれていた。
それは「ベッケンシュタイン境界」もそうだし、『クロノ・クロス』という言葉もそうだ。
「…これって、おじさんが書いたんよな?」
「そうや」
「でも、クロノ・クロスって…」
「どうかした?」
「…亮平は、…っていうか、『クロノ・クロス』がなにかを私もよくわかってないんやけど、ようはクロノ・クロスっていうのは、未来の”科学技術が生み出したもの“で、人間の脳と接続できるデバイスやって…」
「…あぁ」
「それで、“キーちゃんが開発した”って…」
「プッ。まだそんなこと言っとんのか」
…だって、亮平がそう言ったんだよ…
キーちゃんが開発したからこそ、会いに行かなくちゃいけないって…
「クロノ・クロスっちゅーのが何か、アタシもようわからん。けど、楓が言うように、確かにここに書かれとる。それが偶然とは思えん。…そもそも、アタシが確認したかったんは、このノートに書かれてる親父の「研究資料」たちや。ベッケンシュタイン境界。その言葉を、四六時中口にした時があってな。奇妙やったんや。子供ながらに」
「なにが奇妙やったん?」
「親父は、ことあるごとに、「未来」のことを懸念しとった」
「…未来?」
「そ。…2083年に、世界は終わりを迎えるって…」
「………………は!??」
唐突に聞こえてきたその言葉は、真顔で話すキーちゃんの言葉とは思えないほどに非現実的だった。
…いや、それ以上にぶっ飛んでいる。
…世界が、…終わる…?
…どういうことだ?
「言葉」のスケールが、許容範囲を大幅に超えて壮大だった。
おとぎ話でもなかなかお目にかかれない“ワード”。
一瞬、ふざけてるのかと思った。
「笑うやろ?アタシも未だに信じてない。…信じてないって言うか、どう考えても頭おかしい発言やろ?どっから突っ込んでええかもわからんくらいぶっ飛んでる」
「…そう、やね」
「親父は、2083年に起こる「こと」と、「ベッケンシュタイン境界」っていう言葉を繰り返し口にしていた。黒板にいつも数式を書き出してた。「ブラックホール」とか「裸の特異点」とか、マクスウェルの悪魔、シュレーディンガーの猫のパラドックス。最後にはいつも、『情報量I』の上界についての考察を、何時間もかけてやってた。未来の人間が助かるためには、「時間」に“穴”を開けるしかない…とかなんとか言うてな」
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