雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

文字の大きさ
上 下
192 / 698
空と海と、トンネルの向こう

第191話

しおりを挟む


 仕切りがない、開放的な間取り。

 玄関口と同じく、木で敷き詰められた空間は、天井が高く、窓がないにもかかわらず少しも圧迫感がない。

 吹き抜けと相性の良い、木×アイアンのスケルトン階段。

 力強い大断面の柱と梁。

 ハンドメイドの温かみが伝わる漆喰壁。

 フロア全体を包み込むナチュラルな“木木感”。


 そこは、大空間だった。

 広さ的には、教室ぐらいは余裕である。

 その上吹き抜けだから、屋外にいるような開放感だ。


 何度も言うけど、地下にいるとは思えないほど、暖かく、明るかった。

 隅々まで行き届いた木の壁や床、天井は、木のぬくもりを五感で感じることができるほど、洗練されたデザインが施されていた。

 天井の端に至るまで、自然な素材で組み上げられた設計。

 どうやって作ったんだろうって思ってしまった。

 壁や床、天井は、表面上は木だけど、下地は全部コンクリートだって、キーちゃんが教えてくれた。


 「ここにはたまに来るんや」

 「最近も来たの?」

 「おう。言うても、月に1、2回程度やなぁ。勉強部屋やねん」

 「「部屋」って言うか、家やん」

 「まあ、そうやな。ちなみにこういうフロアはあと4箇所くらいある」

 「えぇ!?」

 「元々親父が使ってたとこや。仕事が終わったらここに来て、寝泊まりして、研究室に行っての繰り返し」

 「…なんか、すごいな」

 「完全に趣味みたいなもんやろ。まあ、この地下シェルターを作ったんは、一応理由があったみたいやけどな」

 「どんな?」

 「アメリカが主導になって開発してる“地下都市計画”ってのが、親父の研究とも関係してるらしい」

 「地下都市計画!?」

 「そ。今から行く「場所」は、その計画のプレビューページみたいなもんや」

 「は!?」


 言ってる意味がわからなかった。

 だってここが「秘密基地」なら、もう行く場所はないでしょ?

 キーちゃんはリビングを越え、ある「部屋」に私を連れていった。

 私の身長よりも大きな、円盤状の扉がある部屋の中に。


 「この扉の向こうにトンネルがある。そのトンネルを伝っていくと、「目的地」に着く」


 扉に取り付けられたバルブを回し、扉は開いた。

 真っ暗な空洞が、そこにはあった。


 「今から電気つけるわ」


 そう言うと、その空洞に光が灯された。

 先が見えない、直線上の通路。

 巨大な穴。

 それが、目の前に広がった。


 「…どこに繋がっとん?」

 「神戸港新港東ふ頭とポートアイランドとを結ぶ道路トンネル。知っとるやろ?」

 「…あ、うん」

 「あそこと繋がっとる」

 「ええ!?」


 その道路トンネルは、神戸大橋の横に設置されている地下トンネルだ。

 神戸港港島トンネルって言う。

 でも、そこまでかなりの距離があるはずなんだけど…


 「言うても1.5キロくらいやで?」

 「1.5キロも!やろ??」

 「ハハッ。そうやな。さすがにトンネルまで歩くわけやないで。この通路はトンネルと繋げるためのものやない。トンネル側から掘削作業を進めて、繋がった「道」や。この通路も含めて、こっから先の空間はいわゆる“建設中の工事現場”って感じの場所やな」

 「工事現場??」

 「親父は莫大な金を注ぎ込んで、ポートランドの地下に巨大な“地下施設”を建設しようとしとった。今はもう中断してるが、この通路から、トンネル状に掘り進めていった掘削作業中の場所に行ける。まあ、別にこっちから来んでも行けるんやけど、わざわざここを通ったんは、ある「倉庫」に行きたくてな」

 「目的地って、そこのこと?」

 「そ。親父の研究資料が大量に保管されてる倉庫や。親父は、意外と几帳面な性格なんや。核戦争が起きた後も、自分の資料だけは大事に保管しておきたいって」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...