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空と海と、トンネルの向こう
第188話
しおりを挟むこの13号館は、キーちゃんの父親が設計したらしい。
設計したと言うか、国に要望したらしいんだ。
日本ではすごく有名な科学者みたいで、“ある研究”のためにこのポートランドを拠点にしていたみたいだけど、研究に必要な機材とか、人材とか、設備の設立を、国が主体になって実施していたみたいだった。
『桐崎雄一朗』。
キーちゃんの父親は、海外でもすごく評判の高い生物科学者だ。
日本のダーウィンと呼ばれているらしい。
専門にしている分野はヒトゲノムとかなんとか。
それから、「脳」。
13号館は別名『国際バイオテクノロジーセンター』と呼ばれていた。
人間の生物学的な研究の最先端施設として、ポートランドが誇る名所だったからだ。
大きな正面玄関を越え、吹き抜けのメインホールに来た。
5階くらいの高さまで突き抜けた天井。
洗練されたデザインのフロア。
超高級ホテルに来たかのような空間だ。
ホテルよりも少し病院に近い機能的な色調と設備に溢れているけど、フロアの中央に設置された背の高いエスカレーターは、吹き抜けの広々とした空間に相まって、街のど真ん中にある商業施設のような“アクティビティ“さえ演出している。
もちろん利便性を追求した結果なんだろうけど、各階のフロアがガラスの塀越しに見渡せるメインホールは、公共施設とは思えないほどに遊び心が満載だ。
一階にはカフェとパン屋、それから巨大なモニターがついた休憩室だってある。
関西空港の待合室のような広々としたその空間は、海を一望できるテラス席だって完備されていた。
その真向かいにある渡り廊下を伝っていけば、温泉に入れる施設も。
なんでもここは、大学関連の人だけじゃなく、研究に携わる多くの人や、ポートランドの事業開拓に携わる多くの専門の人たちが行き来する場所でもあったので、自然の成り行き的にそうなったらしい。
このビルの2階から4階には、某有名会社の本社だって入居している。
全部、キーちゃんの父親が誘致したらしい。
どんな大物だよ…って、昔は思った。
今もそうだけど、実際に会ってみると、どこにでもいるおじさんって感じ…かな。
気さくで、誰でも優しくて、ちょっとだけ小難しそうな感じっていうか。
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