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運命の交差点

第162話

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 「頸動脈が損傷してる」

 「頸動脈を結ぶしかない」

 「脳への血流が止まるぞ」

 「後遺症が残る」

 「だが、今すぐに決断しなければ、手遅れになる」


 …手遅れ?


 なにを言ってるんだ、一体


 「楓、下がって!」


 背中を引っ張られ、亮平から遠ざかる。

 手遅れって、…どういうこと?


 「どういうことですか…?!」

 「…血が止まらないんです…。このまま頚動脈を結束しなければ…」

 「…しなければ?」

 「…とにかく、下がっていてください!!」


 先生は、あからさまに慌てていた。

 焦っているのがわかった。

 急いでなんとかしないと、という危機迫る緊張が、表に出ていた。

 目の前で起こっていることが“異常事態“だということが、わかりすぎるほどにわかった。

 今、大変なことが起こってる。

 足元がすくんだ。

 背中から嫌な汗が流れてきた。


 動けないまま、母さんの手を握りしめる。

 訳がわからない。

 今、なにが起こっているのか。



 病室にいつの間にか来ていた、婆ちゃんの声が後ろから聞こえた。

 その様子を、いつ見ていたのか、逼迫する状況の中、慌てて先生に尋ねていた。


 「このままだと、死ぬんですか」


 なにも言わずうなずく先生。

 その言葉の先で、婆ちゃんを見ながら、亮平はただ頷いてた。


 なんとかしてくれって、言っているように聞こえた。


 「外傷室へ連れて」

 「心配停止。急いで!」

 「マッサージ…!マッサージ!」

 「どいて!」

 「電力を上げる」

 「1、2…」



 あり得ないことが起こっている。

 手が震え始めた。

 足も、震え始めた。

 …今、なにが起こってる?

 母さんは私の手を強く握り返した。

 私も強く握った。


 嘘だ


 嘘だ


 嘘だ…!!




 心臓マッサージ。

 ピーーーーーーッと鳴る心拍数の機械。


 嘘だ!!!!!!



 「起きろ!亮平!!!!!」


 ベットにしがみつく。

 揺れる体の近くで叫ぶ。


 死ぬなんて絶対あり得ない

 さっきまで笑ってたじゃないか!

 普通に、平然としてて…




 起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ!


 なんで黙ったままなんだ!


 怪我したって、顔がアザだらけになったって、ケロッと笑ってたじゃないか!!


 ヘーキヘーキ!って、何食わぬ顔でアホ面かましてたくせに、なに目を閉じてんだよ!!!!


 起きろ起きろ、…起きろ!!!!!!!!!



 ピッピッピッピッピッピッピ…



 「息を吹き返したぞ!」

 「よし、切開の準備を」

 「結束するんですか?!」

 「そうするしかない!急げ!!」


 先生が、手術室に亮平を連れて行く。

 亮平は目を瞑ったままだった。

 大量の血。

 力なくベットからぶら下がった右手。


 追いかけようとしたが、止められた。

 手術室のランプが点灯し、手術が始まった。
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