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星の降る夜
第98話
しおりを挟む今日は、満天の星空だ。
空気が澄み、見渡す限り星の光で埋め尽くされている。
前回の「この日」も、こんなに綺麗な星空だったのだろうか。
翔君と電話で頭がいっぱいだったあの時は、空を見上げる余裕なんてなかった。
結局、夜中まで電話したっけ。
正直、内容はあんまり覚えていない。
ただ、時折相槌を打つ翔君の息遣いと、他愛もない私の言葉に遠慮なく笑う優しいトーンが、耳の中をくすぐったこと。
それだけは覚えてる。
「ねえ、翔に連絡した?」
「…は!?え、いや…」
「なんで!?」
急に翔君の話題を出さないでくれ。
私たちはもう終わったんだよ。
まだ、始まる前だけど。
「「翔君」って?」」
ああ、もう、余計なやつまで首を突っ込んできたじゃないか。
あんたには関係ないよ!!
「楓の…」
「あ、コラ!アキラ!!」
アキラはクスクスと笑いながら、余計なことを言おうとする。
口を塞ごうとした。
もう遅かったけど。
「なんかあったん?」
「おめでたいことがあったのよ」
「おめでたいこと?」
「な?楓」
な?じゃないよ…
別に隠すことじゃないけど…
今はあんまり考えたくないんだ…
翔君のことは…
4人で談笑しながら、展望台へと続く街の坂道を、歩きながら登った。
「全く理解できんのやけど」
「なにが?」
「付き合わないこと」
翔君と私の話題が中心になり、時折「未来」の話が、会話の中に広がった。
それは、50年後の世界のこともそうだし、2014年のこともそう。
日常の会話と呼ぶにはあまりにも不自然な内容は、頭の中の時間軸をぐちゃぐちゃにした。
「せやから、好きやなくなったって言うたやん」
「だからそれが理解不能なんやって…。なにがあったん?」
「色々」
「色々!?」
「翔君はかっこいいよ?たしかにかっこいいけど、あんまり一緒にいてもって言うか…、その、なんていうか…」
「一緒にいた!?って!?」
…あぁ、なにをどう説明すればいいのやら…
2人は目をまん丸にさせている。
2人からすれば、付き合う前の私と翔君が、ほとんど接点がなかった(一方的な片思いだった)ことを知っているから、その反応は頷ける。
下手なことは口にしちゃいけない。
それはわかってるけど…
でも…
ってか、2人の前でそんなに「好き好き」って言ってたっけ??
思い切ってカミングアウトしたのは中3の夏だ。
「好きな人がいる」というフレーズ。
突然の告白に、2人は驚きを隠さなかった。
かと言って、そこまで個人の恋愛事情を大っぴらにすることはなかった…はずだ…
言ったって恋が実るもんじゃないし、遠くから見るだけで十分だったから。
「付き合えばいいやん?」
そう言いながら、ニヤニヤしている亮平。
一通りの事情を聞き、2人と一緒になって茶々を入れてくる。
あんたは事情を理解できるでしょ!
背中をポンッと叩いて、それとなく顔と手でジェスチャーしてみた。
けど、この状況を面白がっているのか、へんにとぼけた顔を見せた。
「…だから!」
3人一緒になって攻撃してくるから困った。
電話しろ電話しろって、しつこく言ってくる綺音。
私が代わりに電話しようか?と、非常によろしくない発言をするアキラ。
なにを言われても、聞く耳は持たないようにした。
もう、終わったことなんだ。
それを説明できる「言葉」が無いから、必死に話を逸らそうとした。
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