上 下
99 / 698
星の降る夜

第98話

しおりを挟む

 今日は、満天の星空だ。

 空気が澄み、見渡す限り星の光で埋め尽くされている。

 前回の「この日」も、こんなに綺麗な星空だったのだろうか。

 翔君と電話で頭がいっぱいだったあの時は、空を見上げる余裕なんてなかった。

 結局、夜中まで電話したっけ。

 正直、内容はあんまり覚えていない。

 ただ、時折相槌を打つ翔君の息遣いと、他愛もない私の言葉に遠慮なく笑う優しいトーンが、耳の中をくすぐったこと。

 それだけは覚えてる。


 「ねえ、翔に連絡した?」

 「…は!?え、いや…」

 「なんで!?」


 急に翔君の話題を出さないでくれ。

 私たちはもう終わったんだよ。

 まだ、始まる前だけど。


 「「翔君」って?」」


 ああ、もう、余計なやつまで首を突っ込んできたじゃないか。

 あんたには関係ないよ!!


 「楓の…」

 「あ、コラ!アキラ!!」


 アキラはクスクスと笑いながら、余計なことを言おうとする。

 口を塞ごうとした。

 もう遅かったけど。


 「なんかあったん?」

 「おめでたいことがあったのよ」

 「おめでたいこと?」

 「な?楓」


 な?じゃないよ…

 別に隠すことじゃないけど…

 今はあんまり考えたくないんだ…

 翔君のことは…



 4人で談笑しながら、展望台へと続く街の坂道を、歩きながら登った。


 「全く理解できんのやけど」

 「なにが?」

 「付き合わないこと」


 翔君と私の話題が中心になり、時折「未来」の話が、会話の中に広がった。

 それは、50年後の世界のこともそうだし、2014年のこともそう。

 日常の会話と呼ぶにはあまりにも不自然な内容は、頭の中の時間軸をぐちゃぐちゃにした。


 「せやから、好きやなくなったって言うたやん」

 「だからそれが理解不能なんやって…。なにがあったん?」

 「色々」

 「色々!?」

 「翔君はかっこいいよ?たしかにかっこいいけど、あんまり一緒にいてもって言うか…、その、なんていうか…」

 「一緒にいた!?って!?」


 …あぁ、なにをどう説明すればいいのやら…


 2人は目をまん丸にさせている。

 2人からすれば、付き合う前の私と翔君が、ほとんど接点がなかった(一方的な片思いだった)ことを知っているから、その反応は頷ける。

 下手なことは口にしちゃいけない。

 それはわかってるけど…

 でも…


 ってか、2人の前でそんなに「好き好き」って言ってたっけ??

 思い切ってカミングアウトしたのは中3の夏だ。

 「好きな人がいる」というフレーズ。

 突然の告白に、2人は驚きを隠さなかった。

 かと言って、そこまで個人の恋愛事情を大っぴらにすることはなかった…はずだ…

 言ったって恋が実るもんじゃないし、遠くから見るだけで十分だったから。


 「付き合えばいいやん?」


 そう言いながら、ニヤニヤしている亮平。

 一通りの事情を聞き、2人と一緒になって茶々を入れてくる。

 あんたは事情を理解できるでしょ!

 背中をポンッと叩いて、それとなく顔と手でジェスチャーしてみた。

 けど、この状況を面白がっているのか、へんにとぼけた顔を見せた。


 「…だから!」


 3人一緒になって攻撃してくるから困った。

 電話しろ電話しろって、しつこく言ってくる綺音。

 私が代わりに電話しようか?と、非常によろしくない発言をするアキラ。

 なにを言われても、聞く耳は持たないようにした。


 もう、終わったことなんだ。


 それを説明できる「言葉」が無いから、必死に話を逸らそうとした。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

奪われたものは、もう返さなくていいです

gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……

【完結】婚約破棄されたお転婆令嬢は、チャンスの神様を逃さない

櫻野くるみ
恋愛
伯爵令嬢のロレッタは、夜会で婚約者のライナルトに婚約破棄を宣言されてしまう。 婚約自体に思い入れはなかったが、自分の家族や兄嫁までを馬鹿にされたロレッタは、思わずライナルトに飛び蹴りをくらわす。 今は淑女として振舞っているロレッタだったが、昔はお転婆な少女だったのだ。 一方、美しい風貌と素晴らしい剣の腕を持ちながらも、女性を寄せ付けないことから『氷の騎士』と呼ばれるクロヴィスは、今日も夜会の警固の傍ら、とある女性を探し続けていた。 その強い視線を巡らせ、今夜も思い出の中の元気な少女との再会を夢見ていると、何やら婚約破棄騒動が始まり―― 派手に婚約破棄された令嬢が、実はとっくに有望騎士の心をガッツリと掴んでいて、幸せになるお話です。 完結しました。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

勘違いは程々に

蜜迦
恋愛
 年に一度開催される、王国主催の馬上槍試合(トーナメント)。  大歓声の中、円形闘技場の中央で勝者の証であるトロフィーを受け取ったのは、精鋭揃いで名高い第一騎士団で副団長を務めるリアム・エズモンド。  トーナメントの優勝者は、褒美としてどんな願いもひとつだけ叶えてもらうことができる。  観客は皆、彼が今日かねてから恋仲にあった第二王女との結婚の許しを得るため、その権利を使うのではないかと噂していた。  歓声の中見つめ合うふたりに安堵のため息を漏らしたのは、リアムの婚約者フィオナだった。  (これでやっと、彼を解放してあげられる……)

処理中です...