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星の降る夜

第90話

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 「もし時間通りに地震が起きたら、アキラと綺音に手伝って欲しいことがあんねん」

 「…なに?」


 手伝うってなんだよ。

 今はとにかく「話」を信じてもらうことに全神経を集中させろ。

 っていうか、この話を皆にする必要あんのか本当に…。


 「とにかく、時間まで待とうや。話はそれからや」


 スマホをテーブルに置いたまま、58分になるのを待つ。

 その間にアキラは具体的なことを聞いてた。

 未来の「いつ」から来たのか、とか、なんのためにタイムリープしたのか、とか、どんな方法で移動したのか、とか。

 半分笑いながら。


 亮平はそれにはノーコメントで、説明することはなかった。

 そんな中、デジタル時計の数字は58の数字を指し示し、更新されたネットのページでは、『関東地方で震度4の地震を観測』の文字が発表された。


 その途端に「…うっそ」という声を上げて驚くアキラの姿。

 なんで分かったの?と、今度は真面目な顔になって亮平に問いただした。


 「どう言うこと…?」


 状況の整理が追いつかないまま、亮平を見ている。

 私だってまだ信じられないが、アキラ、亮平の言ってることは多分ほんとなんだ。

 うまく説明することはできないが、それでも、「未来」から来たっていうのはあながち間違いじゃない。


 (頼むッ…信じてくれ)


 と、心の中で祈るようにアキラを見つめた。

 しかしアキラの方は、目が点になって口を開けたままだ。


 …はあ。

 不安に感じたのはこれだ。

 そりゃアキラだって驚くだろう。

 「未来」から来た、という証拠になるのかどうかまでは分からないが、少なくとも10分後の出来事を言い当てたんだ。

 下手なマジックより衝撃的だ。

 でもこの場合、「マジック」だからという都合の良い種明かしは存在しない。

 「なんでわかったのか」の合理的かつ明確な答えを出さなきゃいけない。

 それをちゃんと説明できるのかよ…。


 でも、亮平はきちんとした説明もないままに、話を進めようとした。


 「俺が未来から来たってわかってもらえたところで、話を進めるんやが…」


 ちょっと待て!!

 私はもう一度亮平をトイレまで連行して、問い質す。


 「あんたばかか!」

 「急に何言い出すねん」

 「いやいやいや、そりゃこっちのセリフや。アキラが放心状態になっとるやんけ!」

 「今ので多分信じてくれたやろ?」


 信じるもなにも、ちゃんと説明しなきゃダメだろ。

 話を雑に進めるな。

 「余計なことを省く」と言ったが、省きすぎだ。

 もっと丁寧に、やさしく、伝えるべきだ。


 「なんとなくでええねん、今は。あとでちゃんと説明する」


 いやいや、だったら今別に「未来」の話を持ち出すなよ。

 たんに散らかしただけじゃないか。


 「手伝って欲しいことがある言うたろ?」


 はあ?

 …ああ。そうだけど、なに?


 「それを今から言うから、黙って聞いとけ!」


 逆に説教されてしまった…。

 なんだよ「手伝うこと」って。

 それって、今やらなきゃいけないの?

 再び席に腰を下ろし、亮平を睨む。

 その横でカチャカチャと鳴るフォークの音。

 っておおい!もう半分食ってる!!

 綺音、お前会話に参加しなくて大丈夫か!?


 「すまんな、邪魔が入って」


 冷静沈着に事を進める亮平を見ながら、アキラはシンプルな質問をぶつけてきた。


 「他に、予言できるものとかないの?」


 そうか。

 確かに、そう言われると気になる。

 でも昨日の話じゃあ、「未来を完全に予測することはできない」って言ってなかったっけ?

 この世界は前の世界と限りなく似ているようでも、微妙に違うと言っていた。

 モナリザの絵と、コピーしたモナリザのレプリカの絵みたいに。

 必ず「同じ出来事」が起きるとは限らないって、そう言ってたよね?


 「うーん。できるし、できない。「大きい」ことなら、予測できるが」

 「「大きい」こと?」

 「そうやな、例えば今このカフェの店員が何をするかとか、アキラが次になにを考えるか、とか、そういうのは予測できん。逆に「何日」に誰が死ぬか、とか、世の中の大きい「事件」とか、そういうのは予測できる。100%やないがな」


 大丈夫だ、アキラ。

 私にも、亮平が言ってることはイマイチ理解できてない。

 けど、コイツが言ってることは事実っちゃ事実。

 確証は持てないけどね。


 亮平の発言に少しだけ頷きながら、黙って話を聞いてた。

 すると逆に、亮平の言ってることに少しも驚かない私の顔を見て、アキラは不思議がった。


 「…楓は知ってたの?」


 え?

 やばい。なんて言おう。

 亮平を見たら左目だけウィンクして、

 (うまく話を合わせろ)

 みたいなことを伝えようとしている。

 アクション映画で見たことがある。

 双眼鏡を使って遠くの会話を口の動きだけで読み取る人。

 私はスパイでも諜報機関でもないから、そんな口パクされても何言ってるか読み取れねーよ!

 焦りながらとりあえず「うん…」とだけ答えた。
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