雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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【第2章】新しい朝

第88話

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 「お前ら最近ログインしてないやろ?」


 そりゃ、まあ。

 このご時世だし、LINEがあればなんとかなるっていうのが分かったから、一々ログインして連絡を取り合うっていうのがね。

 非公開アカウントだから外部から見ることができないし、個人アカウントで友達になって閲覧できるようにしても、それだったら普通に4人のツイッター垢と友達になってやり取りした方が良くね?って話になった。

 第一、私はもうIDもPASSも忘れた。


 「俺も忘れてたが、先日風の岬に行ったんや。そこでタイムカプセルを掘り起こした」


 え!あんたあれ掘ったの!?


 タイムカプセルのことは覚えていたが、そこまで思い入れがあるものでも無かった。

 ただ、皆と共有できるものを作りたくて、明日の世界でも、みんなと一緒にいたくて、形としてそれをやっただけだ。

 きっと、アキラも絢音もそうだと思う。

 タイムカプセル自体にはとくに思い入れはない。

 どちらかと言えば、あの日、皆と掘った地面の下で、「今日」という日を忘れないように、って、願いを込めたことには、思い入れがある。

 だけど勝手に掘るってどういうことよ!?

 誰が許可した??


 「安心せい。お前らが自分に宛てた手紙は見とらん。ついでに俺自身の手紙もな。見るんなら、一緒のタイミングがええやろ?俺が見たかったんは、カプセルの中に一緒に入れた「IDと PASSが書かれた紙」や」


 そんなもん入れたっけ?


 「入れた入れた。俺かて、IDとPASS忘れてたくらいや。その紙がなかったら永久にログインできんやろ?」


 私たちがTwitterアカウントを開設したのは、日記として活用するためだけじゃない。

 いつか世界が無くなっても、私たちが存在していたんだって証拠を残しておきたい。

 そんなとんでもなくスケールの大きな「子供の考え」の下で、真剣に考えたんだ。

 どうやったら、私たちの存在を残しておけれるか。

 それで、「私たちだけのホームページ」を作った。


 メールをすれば、すぐに連絡が取れる。

 どんなに離れてても、ネット上で会話することができる。

 でも、いつかは皆死ぬんだから、後世に私たちのやり取りとか、一緒にいたんだっていう時間を残したいよね?っていう話を皆でして、それで作った。

 今思えば、なんでそんなこと考えてたんだろう…って思うけど。


 まあ、大した意味はなかったんだとは思う。

 ただ、亮平ママが亡くなって、人が死ぬんだっていうことがその時わかって、皆、これから先のことについて、少しだけ考える時間があった。

 ホームページを作って、いつでも皆が同じ場所にいられるように、遠い未来でも同じ時間にいられるように、と願ったのは、別れたくなかったからだ。

 なにと?って言われたら、答えようがないけど。

 まあでも単純に、皆と一緒にいられる時間かな?

 卒業式の時に味わったような、別れ。

 それが嫌で、無意識のうちに願ったのかもしれない。

 

 「なんでログインしようと思ったん?」


 なんで今さら、そんな忘れてるようなアカウントにログインしたの?

 理由がわからなかった。


 「別に。でも覚えておきたくてな。そんな日もあったなってこと」


 なにをそんな哀愁チックに…

 パンケーキが不味くなるからやめてくれない?

 
 「昨日俺、楓に怒られたんや」

 「え?なんで?」

 「いつまでもチンタラチンタラ生きてんなやって」


 そんなこと、一言も言ってない。

 それに怒ってすらいない。

 私が反論する前に、亮平は話を続けた。


 「それで思ったんや。やり残したことがあるってな」

 「やり残す、って?」

 「お前らと一緒にいられる時間。それは今しかない。もう3年の12月や。あと3ヶ月しか一緒におれへんけど、それまでにお礼がしたいんや」


 お礼?

 なにを言ってるんだこいつは。

 と、思いつつストロベリーソースをパンケーキにかけようとした矢先、亮平はとんでもない発言をした。



 「俺が未来から来たって言うたら、お前らは信じてくれるか?」



 …は?



 その発言を聞いてすぐその場に立ち上がり、亮平をトイレへと連行した。
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