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第一次クロノプロジェクト
第69話
しおりを挟む「大丈夫?」
「…もうちょっとマシなやつ引いてくれんか?」
…いや、知らんし。
なにこれ。
亮平はどうしてガチャを私にさせたかというと、その「ガチャのシステム」に注目してほしいからだそうだった。
「今のはただのクソ雑魚いドラゴンなんやけど、ガチャの中には、低い割合やがめっっちゃ強いドラゴンもおる。そいつらを引き当てるのは、至難の技や。やけど、“確率”が設定されてる以上、いつかは“必ず出る”」
この“必ず出る”と言う言葉に、注目してほしいそうだった。
「話を戻せば、50年後、また過去に情報を送信して、今と全く同じタイミングでガチャをするとするやろ?」
「うん」
「そしたら、またノーマルレアが出るかもしれんが、それを何回も繰り返していくと、いつか、必ず激レアドラゴンが出るはずや」
「なんで?」
「なんでって、それが“確率”やからや。理論上は、一回のガチャで、100%激レアを出せる「時間」を、俺たちは作り出せるはずやった」
「でも実際は?」
「実際は、できん。それが、コンピュータ上で導かれた計算結果やった」
どうやら、科学者が発見した問題とは、世界のエネルギー総量に於ける問題だけでなく、ある出来事の発生に於ける”確率の乱雑さ“を完全に排除することができないとする理論が、計算結果により導き出されていることだった。
具体的になにが問題なのかと言うと、世界の出来事の発生に於けるエネルギーの<使用率/使用量>は常に一定であるにも関わらず、ある時点でサイコロの目が1になる確率は「100%ランダム」であることが、数式により弾き出されていることだ。
つまり、私が死んでも死ななくても、“2014年9月10日にランダムでサイコロの目を1にできる“ということを、それまでの『回数(過去でサイコロを転がした回数)』に関係なく行えると言う点が、問題だった。
この理論を突き詰めていけば、「世界」の1つの現象に対して、世界自身が嘘をついているか、嘘をついていないかが区別できない”特異点“が、<過去・現在・未来>の平衡線上に常に存在していると言うことを、認めざるを得なくなる。
『運命の特異点』
未来では、その「問題」をこう呼んでいた。
「『クロノ・クロス』は、人間が永遠に生き続けられる1つの方法や可能性を見つけたが、同時に、「人間という存在そのものが嘘である=存在しているという確定性を持てない」という可能性を見つけたデジタルソースでもあった」
「人間という存在そのもの」が嘘である、というのは、物質的にも確率的にも、100%それが確証的な要素を持てないという意味で、常に量子的な数値結果がランダムであるという意味だそうだ。
私たちは直感的に、自分という存在がここにあるということを認識することができる。
でも、実際は、存在している状態でもあるし、存在していない状態でもあるという「不確定性」が、私たちの存在の決定性を常に乱雑にしているらしかった。
「やから、そもそも世界は修正されるべきやなかった。1つの世界に「複数の結果」を持つなど、あってはならんことや」
…まあ、話はわかったけど、正直わからん。
こういう話は苦手なんだ。
亮平に言われたことをそのまま頭の中で復唱しているが、呪文のように聞こえなくもない。
…で、結局、私は助かるの?
助からないの?
本題はそこだ。
亮平は、私のこの問いに応えるように、ノートに1つの単語を書いた。
『clear』。
そしてその文字を指で押さえて、こう言ってきた。
「俺に協力してくれ、楓」
「協力?」
「お前を助けるために、「ここに来た」って言うんは、決して大げさな言葉やない。俺は、元々あったこの世界の『結果』を取り戻したい。まだ、嘘をついていない世界の結果を」
元々の世界?
あんたが、最初に事故にあった世界のこと?
「クロノ・クロスで導き出された、“世界はいつでも嘘をつけれる“という数式そのものを削除することはできんが、世界の修正を止めることはできる。自分たちで犯した時間の修正を、自分たちで取り消すんや。最初にあった世界、それこそが、いつまでも真実でいられるように」
???
…そんなことを言われても、なにを協力すればいいんだ。
「具体的に、なにすればええん?」
「クロノプロジェクトを中止したい。いや、正確には、クロノクロスの開発を中止したい」
「中止…って」
話が壮大すぎんか?
私は元の世界に帰りたいだけなのに…。
けど、次に発した亮平の言葉に、愕然とした。
亮平がなぜ私を頼ったか、なぜ、協力して欲しいと言ったか、その理由が、その一言の中に全部含まれていたからだ。
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