64 / 698
風の岬
第63話
しおりを挟む1月、年が明けて、亮平の新しい生活が始まった。
父親の暴力から解放された亮平は、きっと2年生に上がる頃には、以前のように戻って行くんじゃないかって、勝手に思っていた。
それは、ある意味この年の一番の楽しみだったかもしれない。
でも、実際はそうはならなかった。
春になって新学期を迎えると、亮平は見間違えるように髪を茶髪に染め、服装はだらしなくなり、言葉遣いがどんどん汚くなっていった。
いつからか、部活にさえ来なくなり、竹刀を使って人に「暴力」を振るうようにもなっていった。
誰かをイジめたり、イジメられる現場を見ることなんて須磨西中学にはなかったのに、亮平が先頭を切って、学校内の不良グループを形成してた。
「おい、楓!」
それは、いつもの元気な男の子の声ではない。
私を呼んだその声は、どこか見窄らしく、へんに誇張が入った、だらしない音に聞こえた。
「なに?」
「お前と話したい男子がおるって。よかったら遊びこいや」
「へぇ」
くだらなかった。
いつから、そんな雑な言葉を使うようになったのか。
自分がさもリーダー気取りで、自分の言っている事が、世界の中心にあるような下りで、私を「女」と扱っているその言葉は、とても私の知っている幼馴染の言葉ではなかった。
あんたに指図される覚えはないし、あんたの言う「男子」にも興味はない。
イライラしながら、なんでそんなことを言われるかと疑問に思った。
別人のような口調に、別人のような視線。
そんな姿を見たり、聞いたりしているうちに、時々感情が爆発しそうになった。
コイツ、ほんとに大丈夫か?って、何度も思った。
それでもあの頃、私は面と向かって亮平になにも言えなかった。
私は私で、そういう言動や行動は、ただの思春期限定の変化に過ぎないのだと、どこかで思っていたからだ。
でも、その頃の亮平の身に起きた変化は、日に日にエスカレートしていった。
ある日、校庭に高校生と一緒にバイクに連れられて侵入してきた亮平の姿を見た時、どこかで、なにかが壊れたような音がした。
ガラス製のコップが割れる音というか、花瓶が床に落ちて壊れる音というか、机の上で鉛筆の芯が、ポッキリ折れて無くなってしまう音…というか。
私はずっと、亮平に期待していた。
余計なお節介、って言われたらそれまでだけど、私たちは、いつも同じ景色を見てると思ってた。
亮平が不良になったことが、ダメと言ってるんじゃない。
汚い言葉を使うことが、いけないとも言わない。
私は亮平となら、友達になれるかもしれないと思ってた。
竹刀を握るその姿や、砂浜のキャッチボールで交わした、約束。
「俺ら、いつか遠い未来でも、一緒に笑い合いたいよな」
その言葉の矛先にあったものが、今も、私の心に残っているということ。
それは亮平は知っているのだろうか?
知っているとして、この気持ちは伝わるのだろうか?
人としての強さや、逞しさを追い求めていた亮平の背中を追って、
「がんばれ」って、
思えたこと。
亮平の瞳の向こうにある世界の晴れ模様が、須磨の街の景色を彩っていたということを。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
雨上がりに僕らは駆けていく Part2
平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女
彼女は、遠い未来から来たと言った。
「甲子園に行くで」
そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな?
グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。
ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。
しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる