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607勇者

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上陸した島は、闇の魔力が有るだけで、魔獣も居なかった。
神殿は、今まで見て来たのと同じ様に、古の建物の周囲に後から神殿らしい建物を増築した作りだった。
しかし、この神殿は他とは大きく違っていた。

「サリナお姉さん。入口上をみて。」
「分かっているわ。これは夢じゃないのよね。」

入口の上にある壁画には勇者、天使、魔人の姿が描かれているが、勇者の姿がそのまま残されていた。
他の遺跡では、勇者の姿だけは壊されていたにも関わらず。

『リッチが、まさしく勇者の姿だと言っているにゃ。
 嗚咽が酷くて、言っている事が良く聞き取れにゃいけど
 この遺跡だけは、勇者様を信じてくれていると言っているみたいにゃ。』

リッチにしては、自分が尊敬する勇者の話が歪んで伝わり
今まで遺跡に掘られている勇者の姿だけが壊されているのを見て、ずっと心を痛めていたのだろう。
この壁画を見れただけでも、本当にこの遺跡に来れて良かった。

直ぐに遺跡の調査を始めたい所だが、サリナ姫の気持ちを組んで勇者の絵をスケッチするまで待つ事にした。
サリナ姫と一緒にヨハン王子もスケッチを始めた。
実際に使い物になる絵はヨハン王子のだけだろう。

その間、俺は壁画や遺跡自体の写真を撮っていた。
写真についてはOZ、アーク、クリームの他にバラン将軍とオリバー隊長にしか話していない。
せめて紙に印刷する技術が有れば、有る程度公開しても良いと思うのだが・・・
サリナ姫には、少し後ろめたいが今は諦めてもらうしかないか。

俺は2人の邪魔をしないように少し離れた所に座ると、浩司が横にやって来た。
他のメンバーは、サリナ姫とヨハン王子の警護は俺達に任せ、念の為 遺跡の周囲を確認している。
勇者の姿は、線が細く戦う様なイメージではなく、まるで学者の様な感じがする。
リッチから聞いた話では、人が安全に過ごせる場所を作り上げたが、決して魔獣を退治していた訳では無かった。
魔道具を使ったり、病人の治療や薬の調合。
勇者というより賢者、科学者や医者といった方がしっくりくる。

そう考えると天使は・・・

「ヤマト、リッチに聞いて欲しいけど、もしかして天使様って元は言語学者だったりしない。」
『落ち着くまで待つにゃ。未だ、まともに話ができにゃいにゃ。』

どうやら、未だに嗚咽が収まらないらしい。

「拓ちゃんは、どうしてそんな事を思ったんだ?」

代わりに浩司が聞いて来た。

「俺達や魔獣は詠唱なしで魔法が使えるだろ。でもこの世界の人は詠唱をしないと魔法が使えない。
 そして、魔道具は魔法陣に魔力を流すことで魔法を発動できる。
 ずっと何故かと不思議に思っていたんだよね。」
「俺達が別の世界から来たからじゃないのか?」
「それだと説明になってないよ。それに、何で獣人は魔法を発動できないのか?」

浩司が続きを聞こうとしたが、リッチーも落ち着いたみたいでヤマトが話しかけてきた。

「リッチーに聞いたにゃ。言語学者かは分からにゃいが 確かに色々な言語を扱えていたにゃ。
 魔法もその中の言語の1つの様に考えていたらしいにゃ。」
「やっぱりそうなのか。」

俺の中で1つの仮説がまとまった。それを浩司に話そうとすると

「皆さん、お待たせしました。写生が終わりました。」

サリナ姫の満足そうな声が聞こえてきた。
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