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473理想

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******(ルドルフ料理長)

「これが、タコの料理か。」

テーブルにはタコの刺身、カルパッチョ、酢の物、唐揚げ、甘辛煮、パエリアとタコを使った料理が並んでいる。
拓殿にレシピを教わりながら作った料理だ。
レオ殿は魔力の訓練で疲れ切って部屋で横になっている。

初めて調理をしてみたが、さすがに食べるのは躊躇する。
他の料理人も興味深そうに見ているが、誰も手を出さない。
ヤマトが泣き声を上げると拓殿が取り分けるので

「待つんだヤマト。大丈夫だ、先ずは俺が食べる。」

思わず、止めてしまった。流石にヤマトに食べさせるのは可哀想だ。

「ルドルフ料理長、まるでヤマトが自分の子供みたいですよ。」

拓殿には、そんな風に見えるのか。しかし

「何を言っている。本当の子よりヤマトの方が可愛いぞ。
 あのバカ息子どもは結婚したら家に帰っても来ない。
 たまに帰って来たと思えば、金の無心だ。」

あのバカ息子と義理の娘の顔が浮かんで頭にくる。
何時までも、かみさんが甘やかすのがいけないのだろう。
思わず愚痴をこぼしてしまったが、今はタコ料理だ。
拓殿が好きな食材なら、食べる価値がある。
勇気を持って、タコの刺身を一口食べてみる。

「これがタコなのか。面白い歯ごたえで美味い。大丈夫だな。ほら、お前達も食べてみろ。」

見ていた料理人に進めながら、他の料理も食べてみる。
面白い食材だ。新しい食材に刺激を受け、頭に浮かんだアイディアを書き残す。
しかし、海の食材を入手するのは難しい。
生は無理だろう。また港町に行く事は出来ないだろうか。


******(ジャン料理人)

俺は拓殿がオーナーとなるカレー工場に付属する料理店で料理長として働く。
OZの皆さんやブルネリ公爵、ルドルフ料理長が集まった所で店の内装の説明を聞いている。

「こちらで考えていたのは、こんな感じです。
 簡単な図面と、雰囲気が伝わる様に絵を描いてみました。」

浩司殿が見せてくれたのは50人は入れそうな間取り図とタイル張りの店内の絵だった。
さらに調理場には巨大な冷蔵庫、冷凍庫まで装備されている。
ルドルフ料理長も意見を出してくれ、動線も考えられた配置だ。
他にも数種類の案を提示してくれた。
俺が、これだけの場所で働けるとは夢の様だ。

しかし、図面から顔を上げた俺の目に入って来たのは、拓殿の考えている様な表情だった。
俺の実力では過ぎた場所だと思っているのだろうか。
俺と拓殿の様子を見たルドルフ料理長が

「拓殿、何か気になる事でも有るのか。」

と問いかけると、拓殿は

「気になると言うか、ジャンさんはこの店でも大丈夫ですか。」

これは俺の実力と店のレベルが合っていると思うかとの質問だろうか。

「確かに、これだけの店で働く実力とは思っていませんが、今以上に努力をします。」

俺の答えに、拓殿が困った様な顔をする。
やはり、実力に不相応な店なのだろう。そう思っていると

「ジャンさんの実力を考えれば、来てもらう方が勿体ないと思っています。
 そういう事では無く、この店だと広過ぎませんか。
 料理を作る場所が裏になるので、食べるお客様の顔が見えませんし。」

どういう事だ。これだけの素晴らしい店なのに、拓殿は気に入らないのか。

「拓殿は、どんな店が理想だと思っているんだ。」

ルドルフ料理長の問いかけの答えが
15人位座れるカウンターが有り、その目の前で料理人が調理を行う。
裏にも調理場を用意するが、カウンターの前での料理が基本となる。
後ろにテーブル席や、用意するが調理場から店全体が見える規模が丁度いいと考えていた。
もう少し凝って、小上がりという靴を脱いで座る場所も作りたいらしい。

「拓殿の理想は少し大きめの小料理屋って感じか。
 ジャンはどう思う。お前が仕切る店だ。」

ルドルフ料理長の言う様に、俺が店を仕切る。
俺もしっかりと店の事を考えないといけない。
店の中を一望できるサイズか、人を多く入れられるサイズのどちらが良いのか。
拓殿が理想とする、自分が作った料理を食べる客の顔が直接見れる店にも凄く引かれる。しかし

「個人の店としては、拓殿の考えは魅力的ですが、
 今回の1番の目的は多くの人にカレー料理を食べて頂く事です。
 店としては、広い店の方が良いと考えています。」

俺の意見に、拓殿も頷いてくれた。
店は、浩司殿が初めに提示してくれた案が採用となった。
只のたたき台なので、全く違う内装でも構わないと言ってくれたが、これ以上の内装は考えられない。
住む場所を店の2階、もしくは店の側に用意して欲しいという俺の要望も受け入れてくれるそうだ。


話が終わった後、ルドルフ料理長に断り人の居ない庭に移動すると

「凄過ぎる。俺があれだけの店で働く事が出来るなんて。
 やった―。」

大声で叫び、そのまま土の上に倒れ大声で笑った。
空に伸ばした手を見ながら、まだ改善できる事を考えた。

もう一人、俺と一緒に働いてくれる友人にも話を通しておこう。
基本的に、経営者の1人である商人のヨーゼフ殿が料理人候補を集めてくれるが、
初心者相手に俺一人では対応出来ないので、料理人の友人を誘った。
一緒に新人料理人に教えていかなければならない。
それに、これだけの店となると、接客業務にも力を入れなければならないだろう。

やらなければいけない事ばかりだが、嬉しくてどうしようもなかった。
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