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第三の選択「仲間にするなら、【最強の魔法使い】と【最強の戦士】どっち?」

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「魔王を倒すなら、旅の仲間が必要だ。僕には戦いの経験が無いから……確か、とある女主人がやっている酒場でなら、仲間が見つかるって聞いたんだけど……」
 街から出た僕らは、ゴルスラを極力隠しつつ、裏道を通って目的の場所を目指す。
「あ、ここだ!」
 僕は噂で聞いたことのある店、『女主人と下僕たち』という店の前に立つ。
「……本当にここでいいの?」
 どう見てもその店は、危ないオトナの店にしか見えない。
「まあ、入ってみよう」
 半信半疑ではあるが、とにかく、入ってみないことには何も始まらない。
「すいませーん……」
 ゆっくりと扉を開けると、明るい店内が眩しい。
「あら、お客さん?」
 ふわふわとした髪のお姉さんが僕を出迎えてくれた。



「あ、その、な、仲間を探していまして」
 ふわり、と花のような香りが、お姉さんから漂う。おかげで僕はドギマギしてしまった。
「ふふっ、可愛いお客さんね……仲間が欲しいのね? あなた、とーっても運がいいかもしれないわ。ちょうど、この世界最強と言われている剣士と魔法使いが仲間を募集しに来ているのよ」
 上目遣い、流し目と女性の持つ技を次々と僕に披露してくれるお姉さん。目に毒だ……。
「そ、そんなすごい人たちが仲間になってくれるんですか?」
 なっていただけるなら、これほど心強いものは無いけど、なんで同時に募集を?
 するとお姉さんは僕の疑問を払拭するように、こっそりと耳打ちして教えてくれた。
「実はね、その人たちの募集している人の必須要項が可愛い少年だから、あなたがぴったりなのよ。ほら、仲間にしたい方に声をかけてみるといいわ。あ、それと、二人は犬猿の仲だから、二人を同時に仲間にするのはやめておいたほうがいいわよ。それで、どっちを仲間にするかを決めたら、私に話しかけてね。パーティ登録してあげるから」
 親切に解説をしてくれながら優しそうな顔で、僕を仲間募集のための場所へ導いてくれる。
「どうも親切にありがとうございます」
 僕は感謝を述べ、酒場でちびちびとお酒を飲んでいる女性魔法使い、大きな肉に食らいついている女戦士、なにか得体のしれないものをかっ食らっている、中年太りのおっさんがいた。
 僕はこの中で一番話しかけやすそうな、中年太りのおっさんに話しかけようとする。が、
「魔王? 強いよね。序盤中盤終盤隙が無いと思うよ? でもおいら負けないよ」
 こちらがまだなにも聞いていないのに、勝手にペラペラと喋る。
「……はい?」 
 何の話ですかね?
「あっ! な、なんだ、聞いていたのか。全く、焦らせてくれるだ」
 冷や汗を拭いながら、おっさんは自己紹介をしてくれた。
「おいらも勇者なんだ。君も同業者なんだろ?」
「えっ? ま、まあ」
 僕は自分の手の甲を見る。手には俗にいう、勇者の紋章が知らぬうちに刻印されていて、知っている人ならば、誰だってわかる。
 今、このおっさんは、勇者と言った。ただ、彼の手の甲にある紋章は――
(……絶対マジックペンで書いたやつだー!)
 結構適当で、線がぐちゃぐちゃだ。だが、僕は見なかったことにする。
「で、どう思う? このセリフでそこのべっぴんさん二人を口説けると思うかい?」
「無理ですね」
 僕はお茶を濁そうと思ったものの、あまりにその顔に似合わないセリフを言われるお姉さんたちがかわいそうになったからだ。
「うーん、かっこいいと思ったが、イマイチだっただか……。さっき一度口説いたときに思いっきり殴られたから、次は万全を期したいのだよ。まぁ、べっぴんさんに殴られるのは、それはそれでいいもんだけど……」
(うわー! 変態だこの人!)
 と思ったが、ぐっと我慢して声に出さない。
「ところで少年、なかなか可愛い顔立ちをしているだ。お姉さんとか妹さんはエロくてビッチだったりしないだか?」
 ……もうこの人はダメだ。
「……姉も妹もいません」
 姉と呼べる人はいた。ただ、その人は貴族で、僕との関わりがバレて、もう会えなくなった。
 妹と呼べる娘もいた。ただ、その娘はもうこの世界にいない。
「……そうか、それは残念だ」
 おっさんは何かを察してくれたのか、神妙な趣で諦めてくれた。意外と空気の読める人なのかもしれな――
「じゃあ、お母さんは? きっと爆乳のうっふんあっはんな人に違いない!」
 ……僕は何も言わず、おっさんの元から離れた。





「あ、あの」
 気を取り直し、お酒を飲んでいた魔法使いのお姉さんのもとへ行き、勇気を出して話しかける。



「はい?」
 その魔法使いは、やや小ぶりの杖を持ち、自信に満ち溢れた顔をしている。スタイルもよく、バランスの取れた体つき。髪は少し青みがかかっており、軽く外に跳ねている。やや難しそうに目を細めているあたり、何か考え事をしているのかもしれない。しかし、それよりも特徴的なのは、この身にまとうオーラだ。少し話しかけただけだけで圧倒される。
「な、仲間を募集していると聞いたのですが……」
「……」
 じーっと僕を見つめる。すると、どんどん顔を近づけてくる。
 か、顔が近いよ……
「……可愛い。あっ! ご、ごめんね、私、近眼なの。だから、目つきも悪くて……」
 自分で言って、しょぼーんとするお姉さん。
「……ううん、仕方ないことなの……それで、君を私を恋人か仲間、もしくは生涯の伴侶にしたいの……?」
「え」
 キラキラと光る瞳で見られる僕。何かがおかしい。
「さあ、今から教会に行きましょう……? そして、誓いの儀式をあげましょう……永遠の愛を誓い合うの……」
 ……わーお。大 暴 走!
 僕はあまりのことに唖然とし、少しの間固まってしまった。
「……本気ですか?」
「本気なの。私は、あなたと……」
 ぐっと距離が更に縮まる。お姉さんの吐息を肌で感じる。この距離、危険すぎる……!
「おいちょっと待ってもらおうか! そこの卑怯者!」
 ババーンと、さっきまで大きな肉を食べていた女戦士が登場した。た、助かった?
「……何なの……?」
 じとーっと苛立ちを隠さずに、女戦士を見る。
「いや、少年が困っているじゃないか! どうだい? 私と仲間に……はぁはぁ」



 戦士の息が荒い! 興奮しているようだ!
 こ、こっちもこっちで目が怖いんだよな……。
 女戦士は、赤い服を着て、人懐っこい笑顔を浮かべている。大きな胸が、服に圧迫されて苦しそうだ。身長は高く、ニーハイブーツに包まれた、スラリと伸びる足が素敵だ。髪色は艶やかな黒。目元を少し隠すように伸ばされたその髪は、奥手な印象を与えるが、彼女の人懐っこい笑顔がそのことを意識させない。そして、あの魔法使いのようにオーラが凄い。
「……あなたには関係ないの。これは、私とこの子との話なの」
「いや、少年は仲間を募集しに来たんだ。私にも立候補する権利がある! そうだろう少年?」
「え? あ、はい」
 僕はとりあえず頷く。
「むー……わかったの」
 悔しそうに頬を膨らませながら、しぶしぶ認める魔法使いのお姉さん。
 女戦士は胸を張り、自己紹介を始めた。
「よし! ではまず名乗らせてもらおう! 私の名前はルーシャ! モロク村出身の二十歳よ。よろしくね」
 嬉しそうに名乗るルーシャさん。そして、手を差し出してきた。
「よろしくお願いしますルーシャさん」
 僕は差し出された手を握る。その手はゴツゴツしていると思ったが、柔らかかった。
「……私はタミラ。二十歳なの。こんな脳筋よりも役に立つし、一緒に頑張りましょう?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
 そして僕はまた握手を――
「おいコラ! なーに人を脳筋扱いしてるんだ!」
「事実なの」
「じっ、事実じゃねーし! 我ら戦士には筋肉が必要なんだ。そう、例え女だとしても……」
 自分で言ってしょぼーんとするルーシャさん。あれ? さっきも同じような流れだった気が……
「だ、大丈夫ですって、十分女性らしいですよ?」
 この言葉は嘘ではない。確かに多少ガッチリとはしているが、あくまで女性としてはであり、問題ではない。
「ほ、ほんと? 私って魅力的?」
「は、はい……」
 そういう訳では……と言えない。僕って弱いなぁ。
 だが、僕の言葉を超好意的に捉えたらしく、すごく嬉しそうだ。
「そうかぁ……魅力的かぁ……ふふ、うふふふふふ……」
「……むー、私は? 私はどうなの?」 
 ずいっとタミラさんが僕に近づく。だから近いです!
「タ、タミラさんも十分に美人ですよ?」 
 こういう場合、これでいいのだろうか。僕は女性と話した経験があまりないから、よくわからない。
「……お前は天然のたらしだな……」
 ゴルスラがボソリと、僕だけに聞こえるボリュームで呟く。
「び、美人? う、嬉しいの……」
 顔を真っ赤にさせ、もじもじと服の袖をいじる。
「……これで決まりだな、これで私は、君の……」
「ちょっと待つの! そんなことさせないの! そこの大女!」
 ……二人の間に険悪なムードが。
「こうなったら仕方ない」
「そうね、やるしか無いの……」
 二人はいきなり纏っていたオーラを膨れ上がらせる。
 ま、まさかここで戦う気!?
「ま、待っ――」
「「どちらが勇者くんの心をつかめるか勝負よ(なの)!」」
 …………へ?
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