上 下
84 / 111
Episode09:I can't marry you

3

しおりを挟む
「ミス、シミズ。少し時間をくれませんか?」

 次の日は会社へ向かった。

 萌衣の性格上、二日も仕事をサボることができなかったのだ。

 昨晩は実家に戻って、そのまま会社に向かったのだ。

 実際にジャンと顔を合わせるのは、二日ぶりのことだった。

 朝一でジャンに呼び出され、ミィーティングルームへと連れて行かれた。

 固い表情を浮かべている萌衣に、ジャンは「こちらへかけてください」と椅子を差し出す。

「……」

「昨日は、心配しました」

 萌衣が一向に口を開かないので、ジャンは困ったような表情を浮かべて言った。

「申し訳ありませんでした。以後気を付けます」

「無事ならいいんです」

 沈黙が二人の間に走った。

「お話が以上なら、仕事に戻らせていただいてもいいでしょうか?」

 部屋を出てくために、萌衣は席を立ちあがった。

「モエ」

「会社では、秘密にする約束では?」

 ジャンの言動全てが、萌衣の心をひどく掻き立てる。

 もうこれ以上動揺も、困惑もしたくなかった。

「どうしたんです?突然、そんな風に。正直訳が分かりません」

 ジャンの言葉にカチンときた。

 彼は何も分かっていないのだ。

 萌衣がいないところで、本屋に一人で来たと友人に言ってみたり、接待だと嘘をついてTOMOKAと食事をしていたり。

 そのことによって、萌衣がどのような想いをしたのか、どれだけ傷ついたのか分かっていないのだ。

 萌衣は、黙って部屋を出て行こうとする。

「モエ!私は、あなたと喧嘩をしたい訳ではありません。あなたの気持ちが知りたい。それは、そんなに嫌なことですか?」

 腕を掴まれて、ジャンはまじめなトーンで言う。

 一瞬、気持ちが揺らいだが、萌衣はその腕を振り払った。

 その瞬間、ジャンがものすごく傷ついたような表情を浮かべた。

 なぜ、ジャンがそのような顔をするのだろうか。
 
 傷ついたのは、萌衣の方だ。

「ごめんなさい……」

「いえ、いいんです。私も乱暴にしてしまってすみませんでした」

「あの……」

 小さな声で萌衣は呟くように「私、ジャンさんと結婚できません」と彼に伝える。

「……」

「ブラウン部長も最初に仰っていたじゃないですか。結婚できる相手は誰でもいいと。それに無理ならやめてもいいと仰っていたのも部長です」

「……本気なのか」

「ごめんなさい。それが気持ちです」

 萌衣はそれだけ言うと、部屋を出て行った。

 撤退して自分の安全地帯に逃げてくるのも勇気だと思うから。

 相沢の言葉が脳裏によぎる。

 昨晩ずっと考えて出た答えだった。

 これで、ジャンはTOMOKAにもう一度アタックすることができる。

 それでいいじゃないか。

 勝手な女でいい。

 そう思われても、萌衣は萌衣の心を守ったのだ。

 それも勇気だ。

 部署に戻る前に、少しどこかで気分を紛らわせてから戻ろう。

 今度は、ジャンも追いかけてはこなかった。
 

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

同期に恋して

美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務  高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部 同期入社の2人。 千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。 平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。 千夏は同期の関係を壊せるの? 「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...