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Episode08:I don't know own feeling
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必死に仕事をして、というよりも、仕事に打ち込んだふりをすることで、嫌なことを忘れるように働いていたら、あっという間に業務終了時間になってしまった。
ジャンは、定時と共に所用があるとオフィスを出て行ってしまった。
心なしか、嬉しそうな表情を浮かべていたのは、気のせいではないだろう。
久々に萌衣のお守りから解放されて、喜んでいるのかもしれない。
今夜はあの大量のパンフレッドがある家で一人で過ごす予定だ。
一人でいることよりも、白無垢か、ウエディングドレスかについて考えるだけで、非常に億劫な気持ちになる。
小さくため息をついて、今夜は残業しようと心に決める。
「清水さん、大丈夫?」
荒巻が心配そうな表情を浮かべて、萌衣の隣のデスクに腰かけた。
「荒巻さん……」
野村芽衣子という女優のクレームの件から、少し距離があったが、どうやら荒巻はもうその件については気にしていないようだ。
「なんか、疲れているみたいだね」
「いえ……大丈夫です」
「いやいや、疲れるでしょ。新作発表のイベントもうすぐだもんね。まさか、清水さんと同じ舞台で新作の発表をするとは思ってなかったけど」
荒巻が担当する野村芽衣子を起用した春の新作コレクションと、萌衣がTOMOKAとコラボしたメイクアップコレクションは同じ舞台で発表をする。
当日はメディア関係者もたくさん来る上に、芸能人の参戦もある。
会社側は面白がって、どちらが数字を残すことができるか勝負させようなんて話も出ているくらいだ。
荒巻の担当するコレクションは、春から冬までオールシーズン人気のあるROSSETTOの定番商品である。
その予約数と同じくらい、それを上回る予約数を萌衣のコラボ商品が叩きだしているため、注目されたようだ。
「私も、荒巻さんと同じ舞台に立てるのすごく嬉しいです」
萌衣の発言を聞いて、ボソリと小さく荒巻が呟いた。
何を言っているのか聞こえなかったので、萌衣は聞き返す。
すると、荒巻は人のよさそうな笑みを浮かべて「清水さん、今夜あいてる?久々に一緒に飲みに行こうよ」と言った。
「飲みにですか?」
ジャンには真っ直ぐ帰るように言われている。
関係は微妙になってはいるものの、ジャンとは一応婚約をしている身だ。
既婚者である荒巻とはいえ、男性と二人で飲みに行くのはいかがなものだろうか。
「えっと……」
「久々にに話したいなと思っただけだし、そんな緊張することないでしょ。去年くらいまでは、よく一緒に飲みに行ってたのに、どうしちゃったんだよ」
戸惑う萌衣に、荒巻が「らしくないぞ」と笑った。
「でも……」
「清水さん、せっかくの機会だし、行こう。大丈夫でしょ、二時間くらいなら。俺も奥さんと子供が家で待ってるから、そんなに遅くまではいられないけど。たまには羽目を外す時もないと、疲れちゃうよ」
荒巻の言葉が胸に響いた。
そうだ。
萌衣だって疲れていたのだ。
ジャンが、萌衣の子守りで疲れてしまったように、萌衣だってジャンとTOMOKAのことを疑ったり、結婚式のことで振り回されたりすることに疲れていた。
ジャンも接待で遅くなる。
萌衣だって外へ飲みに行ってもいいはずだ。
心の中で言い訳をして、萌衣は「そうですね。久々に一緒に行きましょう」と答えるのだった。
ジャンは、定時と共に所用があるとオフィスを出て行ってしまった。
心なしか、嬉しそうな表情を浮かべていたのは、気のせいではないだろう。
久々に萌衣のお守りから解放されて、喜んでいるのかもしれない。
今夜はあの大量のパンフレッドがある家で一人で過ごす予定だ。
一人でいることよりも、白無垢か、ウエディングドレスかについて考えるだけで、非常に億劫な気持ちになる。
小さくため息をついて、今夜は残業しようと心に決める。
「清水さん、大丈夫?」
荒巻が心配そうな表情を浮かべて、萌衣の隣のデスクに腰かけた。
「荒巻さん……」
野村芽衣子という女優のクレームの件から、少し距離があったが、どうやら荒巻はもうその件については気にしていないようだ。
「なんか、疲れているみたいだね」
「いえ……大丈夫です」
「いやいや、疲れるでしょ。新作発表のイベントもうすぐだもんね。まさか、清水さんと同じ舞台で新作の発表をするとは思ってなかったけど」
荒巻が担当する野村芽衣子を起用した春の新作コレクションと、萌衣がTOMOKAとコラボしたメイクアップコレクションは同じ舞台で発表をする。
当日はメディア関係者もたくさん来る上に、芸能人の参戦もある。
会社側は面白がって、どちらが数字を残すことができるか勝負させようなんて話も出ているくらいだ。
荒巻の担当するコレクションは、春から冬までオールシーズン人気のあるROSSETTOの定番商品である。
その予約数と同じくらい、それを上回る予約数を萌衣のコラボ商品が叩きだしているため、注目されたようだ。
「私も、荒巻さんと同じ舞台に立てるのすごく嬉しいです」
萌衣の発言を聞いて、ボソリと小さく荒巻が呟いた。
何を言っているのか聞こえなかったので、萌衣は聞き返す。
すると、荒巻は人のよさそうな笑みを浮かべて「清水さん、今夜あいてる?久々に一緒に飲みに行こうよ」と言った。
「飲みにですか?」
ジャンには真っ直ぐ帰るように言われている。
関係は微妙になってはいるものの、ジャンとは一応婚約をしている身だ。
既婚者である荒巻とはいえ、男性と二人で飲みに行くのはいかがなものだろうか。
「えっと……」
「久々にに話したいなと思っただけだし、そんな緊張することないでしょ。去年くらいまでは、よく一緒に飲みに行ってたのに、どうしちゃったんだよ」
戸惑う萌衣に、荒巻が「らしくないぞ」と笑った。
「でも……」
「清水さん、せっかくの機会だし、行こう。大丈夫でしょ、二時間くらいなら。俺も奥さんと子供が家で待ってるから、そんなに遅くまではいられないけど。たまには羽目を外す時もないと、疲れちゃうよ」
荒巻の言葉が胸に響いた。
そうだ。
萌衣だって疲れていたのだ。
ジャンが、萌衣の子守りで疲れてしまったように、萌衣だってジャンとTOMOKAのことを疑ったり、結婚式のことで振り回されたりすることに疲れていた。
ジャンも接待で遅くなる。
萌衣だって外へ飲みに行ってもいいはずだ。
心の中で言い訳をして、萌衣は「そうですね。久々に一緒に行きましょう」と答えるのだった。
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