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Episode08:I don't know own feeling

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「……無理に結婚をすることもないですよ」

 祖母達から大量のパンフレッドが送られ続けて一週間が経った時のことだった。

 ソファーの前に置いているローテーブルの上に、片付けきれないほどのパンフレッドの山を見つめながら小さなため息をついている時に、ジャンが呟いた。

「……え?」

 顔を上げて、萌衣はジャンの方を見た。

 怒っているというよりも、少しだけ悲しそうな表情を浮かべていた。

「冗談です。なんだか、ひどく億劫な様子に見えたので」

 今夜はゆっくり寝ましょう。

 ジャンは、萌衣が手にしているパンフレッドを山の中に戻して「ホットミルクでも入れますよ」と微笑んだ。
 
 もしかして、ジャンをひどく傷つけてしまったのではないかと思い、萌衣は自分の態度に対して、深く反省した。

 その件をきっかけけに、表面ではお互い上手くやってはいるものの、ジャンとの関係は微妙にぎくしゃくするようになった。

 話し合いを持ちかける必要があるのかもしれないが、表面上は上手くいっているので、会話の突破口が分からない。

 わざわざ「ねえ、ジャンさんが言いたいことがあるなら、はっきり言って」と喧嘩を振るのも違うような気がする。

 萌衣の方が、何を言えばいいのか分からないので、ジャンに言える立場ではなかった。

 本当は、萌衣が積極的に自分の意見を言えばいいのだ。

 結婚式に着たい衣装や、指輪、式場のことなど。

 要望を主張すれば、この話はすぐに解決する。
 
 もう少し、好き勝手してもいいのかもしれない。

 その勇気がないだけで。

「今夜は、接待があるので、少し遅くなります。今日はタクシーで帰ってもらってもよいですか?」

 会社の駐車場に到着した時に、ジャンが言った。

 ジャンの方から、仕事とはいえ用事があると言ってきたのは、初めてのことだったので、萌衣は少し戸惑った。

「だ、大丈夫です」

「真っ直ぐ帰ってくださいね」

「分かってます」

「家に着いたら連絡をください」

 言葉は柔らかいものの、ジャンに突き放されてしまったような気がした。

 TOMOKAの件も、結婚式の件もうやむやな状態で、萌衣がいじけている間に、こんな女の子守りはうんざりしてしまったのだろう。

「分かりました」

 車から降りたくなかった。

 ジャンの腕を引っ張って、「今日は一緒にいたい」と言いたい。

 しかし、無情にもそんな気持ちはジャンには届かず、彼は車から降りてしまう。

「モエ、始業時間に遅れますよ」

 言わなければ分からないし、伝わらない。

 分かっているのに、察してほしいだなんて、都合がよすぎるのだ。

「……はい」

 小さく返事をして、萌衣は車から降りた。
 
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