英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

Episode08:I don't know own feeling

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　ジャンが会社のクレーマー及び、ストーカーから萌衣を守ったという情報は、すぐさま社内に広がり、二人は時の人となった。

　犯人である高岡は、どうやら萌衣との一件でようやく決まった塾のアルバイトがクビになってしまったらしい。

　子供相手の商売ということもあって、警察にお世話になっているような人間に子供を近づけて欲しくないと電話が入ったということだった。

　そもそも、警察に捕まった話を高岡が担当の生徒にしたことから、塾へのクレームに繋がったのだから、自業自得と言えば自業自得である。

　しかし、高岡の住居は東京都の中でも多摩市の方にあり、江東区に住んでいる萌衣が通う英会話教室からはかなり距離が離れている。

　TwitterやInstagramの萌衣の動画を観て知ったのかと思いきや、彼女は「そんな動画見たこともない」との一点張りで、どうやって萌衣の存在を知ったのか、謎が深まるばかりだった。

「でも、今回の一件でブラウン部長の株が急上昇かも！」

　名倉が手を合わせてうっとりするので、鈴木が「あんたじゃ、ブラウン部長も圏外でしょ」とツッコミを入れる。

「でも、清水さん、婚約者いるのにブラウン部長と噂になったら、婚約者さん、また怒っちゃうんじゃない？」

　鈴木のツッコミにも負けなかった名倉が、身を乗り出して言ってきたので、萌衣は曖昧な返事をする。

　まさか、その婚約者とブラウン部長がイコールだなんて、知らせない方がお互いの為だろう。
　
　せっかく仲良くなってきたのに、へんな遠慮を使いあう仲になりたくなかった。

「でも私が清水さんの立場だったら、御礼に乗じてアタックしちゃうかも」

「あの氷の紳士を口説く度胸は私ないわ。ああいうタイプってちゃっかりちゃんと恋人いそうだし。恋人以外になびかなそう」

「全く、夢がないな。鈴木は。ちょっと妄想するくらいいいじゃない」

「まあまあ。二人とも落ち着いて。にしても、一件落着してよかったね。清水さん」

　田口が、鈴木と名倉の間に入って宥め、萌衣に会釈した。

「はい。本当にお騒がせしました。女子会も、また夜の部誘ってください」

「もちろん。誘うわよ。今度は、婚約者さんに会わせてね！ちょっと束縛する系の婚約者が、どんな顔しているかおがんでみたいし」

「確かにね。ちょっと会ってみたいかも」

　昼休みが終了したら、嫌でも会えると思いますが。と心の中で返事をするが、そんなこと口に出せるはずもなく「お昼休憩終わる時間ですよ」と言葉を濁した。

「上手くかわせるようになってきたわね。ちょっと逞しくなってきたんじゃない」

　田口がにやりと笑うので、萌衣も同じように笑みを浮かべた。