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Episode05:I am afraid of this accident

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 静まり返った会議室を見渡して、萌衣はやってしまったと後悔した。

 普段、そんなに主張するタイプの社員ではない萌衣が、出しゃばりすぎたのかもしれない。

「いいんじゃないか?」

 プロモーション部の部長である、篠崎しのざき部長が、低い声で唸り声をあげた。

 篠崎は、ROSSETTO日本支部が出来た当初から働いている人物で、次期専務と言われている。

 彼は、何度もヒット商品を出しており、社内から一目置かれている存在なのだ。
 
 そんな彼が食いついたことで、会議室の空気は一気に変わった。

「篠崎さん。本当に言ってます?」

 隣に座っていた社員が、驚いたような表情を浮かべた。

「確かに、これだけの熱意があれば成功できる気がするよ。それに、なんだか面白そうな匂いがする」

「ありがとうございます……!」

 頭を下げて御礼を述べる。

 TOMOKAが萌衣に「良い雰囲気になってきたから、このままゴリ押ししましょ」と耳打ちしてきたので、萌衣はもう一度会議室にいる面々に向かって頭を下げた。

「ミス、シミズ」

 ジャンが静かに声を上げた。

「はい」

「この企画が通るとすれば、ROSSETTOにとって全く新しい風が吹くことになりますが、責任を持って成功させる自信はあるのですか?」

 冷静な言葉が萌衣にぶつかる。

 ジャンと目が合った。

 キスをしていた時の優しい眼差しは、どこかへ消え去っている。
 
 そこには、次の時代を担うROSETTOの責任者としての、ジャンの姿があった。

「成功させます!ROSSETTOの評判も下げません!」

 言い切った萌衣と共にTOMOKAも一緒に「成功させるので、よろしくお願いします!」頭を下げた。


 波乱と思われる企画会議も終了して、TOMOKAはホッとしたように「いやあ、想像通りの空気になったね」と笑い声をあげた。

 企画は通った。

 あとは、やるだけだ。

「当然ですよ。で、どうやって出演者の募集をかけるおつもりですか?」

 ジャンが、諦めたようにTOMOKAに言った。

「さっすが。ROSSETTOのTwitterで募集をかけてほしいのよね。私のTwitterでもかけるけど」

「Twitterで募集を?」

「そう。そしたら、出演者のギャラだって、女優に比べたら安いもんでしょ」

「ですが、ただ募集をかけて集まるものですか?マーケティング部の報告によると、今は告知をかけただけでは、ひっかかる人なんて少なくなってきているとの話ですが」

「それは、ここにいる清水ちゃんの出番よ」

 TOMOKAは悪戯っぽい笑みを浮かべて、萌衣を見る。

「わ、私ですか?」

「そう。Twitterの動画で大変身動画あげてみよう」

「そんな!私なんて…!」
 
 モデルでもあるまいし、ネットに自分が出るだなんて考えられないことだ。

「何言ってんのよ。そういう人を変身させるのが、今回の企画じゃない」

 そう言われると確かにそうだが、力説されると美人ではないと言われているようで、少し落ち込んだ。

「ミス、シミズをネットに晒すつもりですか?」

 ジャンの言葉にTOMOKAは「晒すんじゃない。告知するのよ」と言い換える。

「私は反対です」

「頭固いわね。そんなんじゃ、今後時代の流れに置いて行かれるわよ」

「そういう問題ではありません」

 ジャンとTOMOKAの言い争いが再び勃発した。

 ああいえば、こういうと言葉のテンポが早い。

 萌衣とジャンではこうはならない。

 唯一しっかりとれているコミュニケーションが、キスをしている時だなんて。

 こんなジャンを見たくなかった。

 寂しい気持ちを押し殺して、萌衣は二人のやり取りをただ見つめた。
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