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Episode02:This is my wife
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次の日、ジャンは約束通り萌衣が預かっていた荒巻の仕事を、部署の何人かに仕分けした。
一人でやれば全く終わらなかった仕事も、数人で手分けするとあっという間に終わった。
「ミス、シミズ」
ジャンに呼ばれて、萌衣は恐る恐る上司兼婚約者の座っているデスクに向かって行く。
「ブラウン部長、何かありましたでしょうか?」
「あなたに新しい仕事を預けます」
ジャンに渡された資料を受け取り、軽く目を通す。
その中には、有名メイクアップアーティストとのコラボ企画の件についてと記載されている。
腰高朋香、通称TOMOKAと呼ばれる、今が旬のメイクアップアーティストだ。
女性雑誌には、必ずと言っていいほど彼女の特集が組まれている。
彼女が出したメイク本はすべて合わせると百万部を突破しており、ベストセラーランキングでもよく見かける名前である。
「これだけいい条件の仕事です。トップを狙ってください。ミスター、アラマキに雑用を押し付けられている場合ではないですよ」
確かに条件としては、近年稀にみるほどいい。
この条件でコケる方が難しいだろう。
しかし、雑用ばかりでまともな企画すら実施したことがない萌衣からすれば、荷が重すぎやしないだろうか。
後退りしていると「できませんか?」と冷たく突き放される。
昨晩一緒に並んで恋愛映画を観た仲だとは非常に言い難いほどの、冷たさだ。
「え……えっと」
「できるのか、できないのか。はっきり言ってください。その言葉以外は今は必要ありません」
二択を与えてくれてはいるものの、ここで「できません」と言えるような雰囲気ではなかった。
ジャンの藍色の瞳が、真っ直ぐ萌衣の瞳を見つめる。
「で、できます!」
「そうですか。では任せます」
ここまでくるともはや誘導尋問だ。
慈悲という言葉を、彼は知らないのだろうか。
一体どういうつもりなのか、萌衣には全く分からない。
「清水さん。ごめんな。俺のせいで怒られちゃって」
席に戻ると、荒巻が申し訳なさそうに萌衣のところへやってきた。
「いえ、全然怒られたりはしていないですよ」
「あれ?それって」
萌衣の手元にある資料を見て荒巻が首を傾げた。
「あ、さっき新しい仕事を部長からいただきました。荒巻さん目指して頑張りたいと思います」
「そうだね。お互い頑張ろう。とにもかくにも、資料のデータ作成の目途がたって助かったよ。ありがとう」
すべて萌衣が手伝ったわけではないが、職場の同僚として協力できることがあってよかったと思う。
結婚してしまったため最近は一緒に飲みに行くこともなくなってしまったけれど、荒巻が独身時代は萌衣をよく飲みに連れて励ましの声をかけてくれていた。
荒巻の背中を見送って、萌衣はジャンから貰った新しい仕事に再度目を向けた。
新商品をTOMOKAとタイアップし、各老舗デパートにある各店舗にメインで置いてもらえるよう頼まなくてはならない。
荒巻の手がける新商品と出る時期は一緒なので、どちらが売れるかガチンコバトルということになる。
起用する女優やモデルは誰にすべきか迷うところだ。
「残業、昨日で使い切ったからな……」
集中して仕事をしないと、期限まで間に合わなさそうだ。
雑用期間が長かったので、必要経費や予算、ターゲット層の分析は得意分野だ。
ジャンとの夕飯までには仕事を終わらせられるように、萌衣は仕事に取り掛かった。
一人でやれば全く終わらなかった仕事も、数人で手分けするとあっという間に終わった。
「ミス、シミズ」
ジャンに呼ばれて、萌衣は恐る恐る上司兼婚約者の座っているデスクに向かって行く。
「ブラウン部長、何かありましたでしょうか?」
「あなたに新しい仕事を預けます」
ジャンに渡された資料を受け取り、軽く目を通す。
その中には、有名メイクアップアーティストとのコラボ企画の件についてと記載されている。
腰高朋香、通称TOMOKAと呼ばれる、今が旬のメイクアップアーティストだ。
女性雑誌には、必ずと言っていいほど彼女の特集が組まれている。
彼女が出したメイク本はすべて合わせると百万部を突破しており、ベストセラーランキングでもよく見かける名前である。
「これだけいい条件の仕事です。トップを狙ってください。ミスター、アラマキに雑用を押し付けられている場合ではないですよ」
確かに条件としては、近年稀にみるほどいい。
この条件でコケる方が難しいだろう。
しかし、雑用ばかりでまともな企画すら実施したことがない萌衣からすれば、荷が重すぎやしないだろうか。
後退りしていると「できませんか?」と冷たく突き放される。
昨晩一緒に並んで恋愛映画を観た仲だとは非常に言い難いほどの、冷たさだ。
「え……えっと」
「できるのか、できないのか。はっきり言ってください。その言葉以外は今は必要ありません」
二択を与えてくれてはいるものの、ここで「できません」と言えるような雰囲気ではなかった。
ジャンの藍色の瞳が、真っ直ぐ萌衣の瞳を見つめる。
「で、できます!」
「そうですか。では任せます」
ここまでくるともはや誘導尋問だ。
慈悲という言葉を、彼は知らないのだろうか。
一体どういうつもりなのか、萌衣には全く分からない。
「清水さん。ごめんな。俺のせいで怒られちゃって」
席に戻ると、荒巻が申し訳なさそうに萌衣のところへやってきた。
「いえ、全然怒られたりはしていないですよ」
「あれ?それって」
萌衣の手元にある資料を見て荒巻が首を傾げた。
「あ、さっき新しい仕事を部長からいただきました。荒巻さん目指して頑張りたいと思います」
「そうだね。お互い頑張ろう。とにもかくにも、資料のデータ作成の目途がたって助かったよ。ありがとう」
すべて萌衣が手伝ったわけではないが、職場の同僚として協力できることがあってよかったと思う。
結婚してしまったため最近は一緒に飲みに行くこともなくなってしまったけれど、荒巻が独身時代は萌衣をよく飲みに連れて励ましの声をかけてくれていた。
荒巻の背中を見送って、萌衣はジャンから貰った新しい仕事に再度目を向けた。
新商品をTOMOKAとタイアップし、各老舗デパートにある各店舗にメインで置いてもらえるよう頼まなくてはならない。
荒巻の手がける新商品と出る時期は一緒なので、どちらが売れるかガチンコバトルということになる。
起用する女優やモデルは誰にすべきか迷うところだ。
「残業、昨日で使い切ったからな……」
集中して仕事をしないと、期限まで間に合わなさそうだ。
雑用期間が長かったので、必要経費や予算、ターゲット層の分析は得意分野だ。
ジャンとの夕飯までには仕事を終わらせられるように、萌衣は仕事に取り掛かった。
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