英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

Episode02:This is my wife

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　ジャンの用意した食事を二人で取った。

　目玉焼きにベーコン、程よく焼かれたトーストにジャム。

　淹れたてのコーヒーは、深みのある味だ。

　黙々と食事を取るジャンに、何か話をしなければと思うのだが、これといっていいほど話題が何も思いつかない。

「そうだ。昼食ですが……」

　まだ朝ご飯を食べている最中なのにも関わらず、昼食の話ですか？と聞けないので、萌衣は「はい」と返事をする。

「今日あなたは会議がありますし、私も来客があるので一緒に取れません」

「あ、はい」

　ええ！会社でも一緒に昼食取る気だったんですか。正気ですか？

　脳内で思い切りツッコミを入れる。

　契約書に一緒に食事を取ると記載されていたが、まさか社内でも一緒に取ろうとしていたなんて。

「あの、ブラウン部長」

「モエ。ここでは、あなたの上司ではありませんので、ジャンと呼んでください」

「えっと……ジャンさん。私たちのこの生活、会社でバレたら気まずくないですか？」

　ジャンと呼び捨てにする勇気もなく、萌衣は「さん」付けで呼ぶことにした。

「気まずいとは？」

　ジャンは萌衣との関係が大幅に変化することを、特に気にしていないようだ。

　萌衣の場合、絶対に噂の餌食になるに決まっている。元々会社の中でうまくやっていけていなかったのに、ジャンと同棲をしていると分かってしまえば、さらに社内で浮いてしまうだろう。

「あの……仕事に支障が出てしまったりしないでしょうか？」

「問題ありませんよ。婚約のことは、多かれ少なかれ早いうちに発表してしまうでしょうし、私と婚約したことであなたにデメリットがあるようなことは、ないでしょう。それとも、なんですか。社内に好きな男でもいましたか？」

「そ、そんな人いません！」

　萌衣とジャンの認識はそれぞれ食い違っているようだ。

　そして、この同棲のことをジャンは婚約だと明言した。

　一つ屋根の下に男女が両家公認で住むのだ。そりゃあ、お遊びではないことは分かっていたが、本当にうまくやっていけるのだろうか。

「あなたは、この婚約を内緒にしたいんですか？あなたがそうしたいのであれば、私はかまいませんよ」

「しばらくは……」
　
　状況が自分でも理解できていないのに、周囲から好奇の目に晒されるなんてまっぴらごめんだ。

「分かりました。では会社での食事は各々するというルールに変更しましょう」

　あれ？何か怒らせた？

　急にジャンは目を反らして、コーヒーをすすりはじめた。

　沈黙が痛い。

　空気の悪い状態のまま、二人は食事を終えるのだった。