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Episode01:You should marry with him
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大手化粧品会社ROSSETTOは、イギリスのロンドンに本社を構える外資系の企業である。
CEOであるロメーヌ・ブラウンが、イタリアの紅花は畑で作った口紅シリーズが目玉商品で、デパートコスメの中でも定番商品だ。
扱っている商品は口紅の他にも、ファンデーションや、アイシャドウ、最近だと化粧水の開発にも力を入れている。
そして、目の前で怖い表情を浮かべて、今にも仕事に集中していない部下を叱り飛ばそうとしているジャン・ブラウンという男は、CEOの孫であり、半年ほど前にイギリスのロンドン本部から、銀座にある日本支社の立て直しのために現れた男だ。
深みがある藍色の瞳に睨まれると、身体中が凍ってしまっているのではないかと錯覚する。
英語も日本語も(おそらくその他の言語も)ペラペラに話す彼は、温かいコーヒーが一気に冷めてしまうほどの冷たい表情を浮かべ「今は業務時間なのですが、その右手に持ったプライベートスマートフォンは、さぞ仕事よりも重大なニュースを持ってきたのでしょうね」と皮肉たっぷりだ。
「申し訳ありません!」
祖母が私の見合いのために、会社に乗り込んでくるんです!
なんて、この冷気を放っている男に向かって言えるはずがない。
先ほどまで額に流れていた冷や汗は、いつまにか消えて氷になってしまいそうだ。
重苦しい雰囲気が、オフィスの中に広がっていく。
リラックス効果のためにとオフィスに流れているクラッシック音楽が、シューベルトの魔王になったのは誰かの悪戯に違いない。
幼い頃からの英才教育が裏目に出た。
これはずるい。
ピアノの音楽に合わせて、何度も通ったオペラ歌手の野太い歌声が脳内で一緒に再生されてしまう。
あまりの状況と曲のマッチ具合に、クラッシックに詳しい社員が、静かに肩を震わせているのが見えた。
叱られている状況なのにも関わらず、声を出して笑ってしまったら、皮肉どころの騒ぎではなくなってしまう。
萌衣は必死に笑うことを我慢した。
「事情があるなら、それに時間を割く必要があると思うが?」
「いえ、大丈夫です。問題ありません。すぐに仕事に戻ります」
こうなってしまっては、何が何でも仕事を終わらせるしかなくなった。
会社の中に入ってきて、「孫の評価はどうなんです?」と偉い人達に聞いて歩く前に祖母を回収しなくてはならない。
「にしても、よく見てるよな……」
仕事に戻ってパソコンに向き合いながら、萌衣は小さな声で呟いた。
ブラウン部長と呼ばれるその男は、萌衣の一番苦手なタイプだった。
部内、いや社内の女性社員たちは、整った顔立ちの外国人上司に胸をときめかせているようだが、直属の上司であり、仕事を一緒にやっている身としては、ロジカルで扱い難い外国人上司にときめく要素が一切ない。
理論攻めで叱られることが多く、またそれが正論なので何も言い返せないまま謝罪していくことが多くなるうちに、すっかり苦手意識が根付いてしまった。
ジャン・ブラウンと恋愛するのは、よほど心の広い人間か、同じような冷徹人間でないと、身が持たないだろう。
萌衣は聞こえない程度のため息をついて、良くも悪くも公平無私な冷酷英国紳士の表情を一瞥した。
CEOであるロメーヌ・ブラウンが、イタリアの紅花は畑で作った口紅シリーズが目玉商品で、デパートコスメの中でも定番商品だ。
扱っている商品は口紅の他にも、ファンデーションや、アイシャドウ、最近だと化粧水の開発にも力を入れている。
そして、目の前で怖い表情を浮かべて、今にも仕事に集中していない部下を叱り飛ばそうとしているジャン・ブラウンという男は、CEOの孫であり、半年ほど前にイギリスのロンドン本部から、銀座にある日本支社の立て直しのために現れた男だ。
深みがある藍色の瞳に睨まれると、身体中が凍ってしまっているのではないかと錯覚する。
英語も日本語も(おそらくその他の言語も)ペラペラに話す彼は、温かいコーヒーが一気に冷めてしまうほどの冷たい表情を浮かべ「今は業務時間なのですが、その右手に持ったプライベートスマートフォンは、さぞ仕事よりも重大なニュースを持ってきたのでしょうね」と皮肉たっぷりだ。
「申し訳ありません!」
祖母が私の見合いのために、会社に乗り込んでくるんです!
なんて、この冷気を放っている男に向かって言えるはずがない。
先ほどまで額に流れていた冷や汗は、いつまにか消えて氷になってしまいそうだ。
重苦しい雰囲気が、オフィスの中に広がっていく。
リラックス効果のためにとオフィスに流れているクラッシック音楽が、シューベルトの魔王になったのは誰かの悪戯に違いない。
幼い頃からの英才教育が裏目に出た。
これはずるい。
ピアノの音楽に合わせて、何度も通ったオペラ歌手の野太い歌声が脳内で一緒に再生されてしまう。
あまりの状況と曲のマッチ具合に、クラッシックに詳しい社員が、静かに肩を震わせているのが見えた。
叱られている状況なのにも関わらず、声を出して笑ってしまったら、皮肉どころの騒ぎではなくなってしまう。
萌衣は必死に笑うことを我慢した。
「事情があるなら、それに時間を割く必要があると思うが?」
「いえ、大丈夫です。問題ありません。すぐに仕事に戻ります」
こうなってしまっては、何が何でも仕事を終わらせるしかなくなった。
会社の中に入ってきて、「孫の評価はどうなんです?」と偉い人達に聞いて歩く前に祖母を回収しなくてはならない。
「にしても、よく見てるよな……」
仕事に戻ってパソコンに向き合いながら、萌衣は小さな声で呟いた。
ブラウン部長と呼ばれるその男は、萌衣の一番苦手なタイプだった。
部内、いや社内の女性社員たちは、整った顔立ちの外国人上司に胸をときめかせているようだが、直属の上司であり、仕事を一緒にやっている身としては、ロジカルで扱い難い外国人上司にときめく要素が一切ない。
理論攻めで叱られることが多く、またそれが正論なので何も言い返せないまま謝罪していくことが多くなるうちに、すっかり苦手意識が根付いてしまった。
ジャン・ブラウンと恋愛するのは、よほど心の広い人間か、同じような冷徹人間でないと、身が持たないだろう。
萌衣は聞こえない程度のため息をついて、良くも悪くも公平無私な冷酷英国紳士の表情を一瞥した。
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