英雄王と鳥籠の中の姫君

坂合奏

文字の大きさ
上 下
47 / 57
episode08:隠した嘘と作戦

4

しおりを挟む

 メノーラ曰く、彼女の父であるイーデラフト公爵は、快くリーリエと会う約束をしてくれたそうだ。

 王宮がバタバタとしている忙しい時期に、あえてリーリエに会ってくれることを、リーリエは感謝した。

「本日はお時間を取っていただきましてありがとうございます」

 リーリエが頭を下げると「とんでもございません。リーリエ様」とイーデラフト公爵は首を横に振った。

「話と言うのは、今回の戦争の件です」

「分かっております。大臣の間でもだいぶ意見が割れました」

「そうですか。イーデラフト公爵。あなたはどう思っておりますか?」

 リーリエは真剣に尋ねた。

 彼がどう考えているかによって、メノーラとリーリエで一緒に考えた作戦が使えるかどうか変わってくる。

「クノリス様のお考えは理解できます。しかし、前回の内戦からだいぶ景気を取り戻してきた今、また新たに戦争を起こしたとして、その戦争がドルマン王国やその他の国までと戦うことになれば、我々の国は現状を持続できるとは思えません」

 イーデラフト公爵は嘘をついているように見えなかった。

「メノーラから話を聞いておりますか?」

「はい。あらかたですが、リーリエ様。クノリス様に黙ってそのようなことをしてしまって本当に大丈夫なのでしょうか?」

「何かありましたら、私が全責任を負います。彼がなんと言おうとも、やはり戦争を起こさせるわけにはいかないのです。彼の目的はグランドール王宮の崩壊です。私は、王宮の人間達を一番知る人間ですから、どこをつけば一番いいのか分かっているつもりです」

 かつてなくリーリエの真剣な表情に、イーデラフト公爵は深いため息をついた。

「リーリエ様。私は、基本的に王であるクノリス様には逆らえません。今までもこれからも王である人間にかしずいて生きてまいりました。ですが、今回は、あなたの意見に賛同しましょう」

「ありがとうございます。イーデラフト公爵」

 リーリエが微笑むと「あなたが女王になる人間として、この国に来ていただいて本当によかった」とイーデラフト公爵が頭を下げた。


***


 イーデラフト公爵との面談が終わって、メノーラがいつも通りに授業にやって来た。

「お父様との面談は大丈夫でした?リーリエ様。一応家で話をしておいたのですが……」

「ええ。大丈夫よ。メノーラ。思っていたよりもことはスムーズに運びそう」

「罠は仕掛けられたってことですわね。私、こんなこと人生で一度も経験したことないですから、ワクワクしますわ」

「私もよ。メノーラ。今にも心臓が飛び出しそう」

 二人でコソコソと話をしていると、ノックの音がしてアンドレアがお茶を運んできた。

「お茶でございます」

 リーリエは、メノーラの方を一瞥した後、アンドレアに「あなたもここへかけてくださる?」と声をかけた。

「……私は、臣下の身でございますので、そちらにはかけられません」

「あら、臣下の身分で私の提案を断るの?」

 わざとリーリエは意地悪く言った。

 リーリエの言葉は絶大だったようで、アンドレアは「失礼いたします」と不服そうであったが席に座った。

「アンドレア。あなたは、私が嫌い。そうよね?」

「……」

「いいのよ。嫌いで充分。私も嫌いだもの。あなたみたいな失礼なことを明け透けに態度に出すような人間は特に」

「お話はそれだけでしょうか?」

「あなたは戦争に反対なのよね?」

 確認するようにリーリエが尋ねると、アンドレアは眉を潜めた。

「何度もそう申しております。せっかくクノリス様がこの地に平和をもたらせたのにも関わらず、まさか数年でこのような状態になるとは……」

 メノーラの協力によって、アンドレアの素性をしっかり調べている。

 アンドレアの実家は前王政にかなり癒着をしていた貴族のようで、その状態に嫌気がさしたアンドレアは、クノリスの派閥に入っている。

 誰よりも正義感が強いアンドレアは、前王政が崩壊した時に、家族たちとの縁を切っている。

 そこから、王宮で誰よりも良い国を作るためにクノリスを支えてきたのだ。

 その彼が、クノリスの提案した戦争に難色を示しているということは、リーリエにとってチャンスだった。

「その責任は私も感じています。だから、あなたに協力して欲しいことがあるのよ。アンドレア」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました

吉高 花
恋愛
◆転生&ループの中華風ファンタジー◆ 第15回恋愛小説大賞「中華・後宮ラブ賞」受賞しました!ありがとうございます! かつて散々腐れ縁だったあいつが「俺たち、もし三十になってもお互いに独身だったら、結婚するか」 なんてことを言ったから、私は密かに三十になるのを待っていた。でもそんな私たちは、仲良く一緒にトラックに轢かれてしまった。 そして転生しても奴を忘れられなかった私は、ある日奴が綺麗なお嫁さんと仲良く微笑み合っている場面を見てしまう。 なにあれ! 許せん! 私も別の男と幸せになってやる!  しかしそんな決意もむなしく私はまた、今度は馬車に轢かれて逝ってしまう。 そして二度目。なんと今度は最後の人生をループした。ならば今度は前の記憶をフルに使って今度こそ幸せになってやる! しかし私は気づいてしまった。このままでは、また奴の幸せな姿を見ることになるのでは? それは嫌だ絶対に嫌だ。そうだ! 後宮に行ってしまえば、奴とは会わずにすむじゃない!  そうして私は意気揚々と、女官として後宮に潜り込んだのだった。 奴が、今世では皇帝になっているとも知らずに。 ※タイトル試行錯誤中なのでたまに変わります。最初のタイトルは「ループの二度目は後宮で ~逃げるための後宮でしたが、なぜか奴が皇帝になっていました~」 ※設定は架空なので史実には基づいて「おりません」

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

【完結】メンヘラ製造機の侯爵令息様は、愛のない結婚を望んでいる

当麻リコ
恋愛
美しすぎるがゆえに嫉妬で嘘の噂を流され、それを信じた婚約者に婚約を破棄され人間嫌いになっていたシェリル。 過ぎた美貌で近付く女性がメンヘラストーカー化するがゆえに女性不信になっていたエドガー。 恋愛至上の社交界から遠ざかりたい二人は、跡取りを残すためという利害の一致により、愛のない政略結婚をすることに決めた。 ◇お互いに「自分を好きにならないから」という理由で結婚した相手を好きになってしまい、夫婦なのに想いを伝えられずにいる両片想いのお話です。 ※やや同性愛表現があります。

処理中です...