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episode02:アダブランカ王国
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しおりを挟む「無理をするな」
リーリエが無理に食べ続けていると、クノリスが制した。
「まだ食べられます」
「残さない精神は立派だが、その締め付けたコルセットが爆発する前に、自分のお腹と相談した方がよさそうだということをお伝えしよう」
厭味ったらしい口調で挑発されると「お構いなく」とさらに食べたくなるが、本当に満腹に近かったので、リーリエは挑発に乗るのをやめた。
「ありがとうございます。クノリス王。素晴らしい観察眼に感謝いたしますわ」
「ところで、リーリエ姫。一点確認したいことがある。君は、グランドール王国でどのくらいの教育を受けていた?」
クノリスの突然の質問に、リーリエは「自国の歴史、母の出身国である隣国のノーランド王国の歴史は一通り。レディのたしなみに関しては、母が亡くなってからは受けておりません」と正直に答えた。
嘘をついても仕方がない。
グランドール王国の第一王妃モルガナは、「あの子にそんな教育もったいないですわ」と一切の教育を受けさせなかったのである。
「なるほど」
クノリスは、何か考えているようだった。
しばらく考え込んだ後、一人の大臣の方を見た。
「イーデラフト公爵。あなたのお嬢さんは、貴族の令嬢たちに講師をやっていたと前に話を聞いた気がするが」
「さようでございますが……。まさか我が娘を?」
「明日から来ることは可能か?」
クノリスの言葉に、イーデラフト公爵と呼ばれた大臣は、驚いたような顔を一瞬だけ浮かべた後「承知しました」と頭を下げた。
「リーリエ姫。アダブランカ王国に来たからには、こちらのしきたりを覚えていただく必要がある。構いませんか?」
クノリスは真っ直ぐリーリエの方を見た。
納得していない大臣達が、納得するようにアダブランカ王国で立派な王妃になってみせろということらしい。
リーリエからすれば願ったりかなったりだ。
「もちろんでございます」
リーリエは、クノリスではなく自分を見ている大臣達の方を見て答えた。
***
イーデラフト公爵の娘、メノーラが到着したのは、次の日の昼のことだった。
眼鏡をかけて、縮れた髪の毛を一つのお団子に結んでいる。
両手にたくさんの本を抱えており、部屋に到着するなり、リーリエの机の上にはアダブランカ王国の歴史書やら淑女のたしなみ、料理本まで置かれていた。
「はじめまして、私メノーラと申します。この度は、第一王妃の教育係に任命されまして、誠に光栄でございますわ。今日私、色々と考えましたのですけれど、まずは色々リーリエ様とお話をしてから、授業カリキュラムを考えようと思いまして、色々と本を持ってまいりましたの」
「はじめまして。今日からよろしくお願いします」
リーリエが丁寧に挨拶をすると「まあ!なんて丁寧な挨拶!恐縮ですわ。他の貴族のわがままお嬢様とは大違い!これが王族っていうものなんですわね」と嬉々とした表情でメノーラは両手を合わせた。
どうやら、メノーラにとって王族の教育係という役割は初めてのことらしく、非常に浮足立って見える。
そして、とんでもなくおしゃべりな口は、リーリエだけでなく、傍に控えていたミーナさえも圧倒した。
「私のお父様は長いこと大臣をやっているのですけれど、クノリス王が王になった時に、我が家はもうダメだって言っていましたのよ。没落していく運命だったのだと。前王の時にも大臣をやっていて、貴族は全員殺されるって思っていたみたいですわ。私は、クノリス王はそんな人間じゃないわって思っていたのですけれど、実際蓋をあけてみたらちゃんと有能な人間とそうでない人間の区別はついていたようで、安心しましたわ。今回も数ある教育係の中から、私を選ぶ素晴らしい人を見る目!まさに王の中の王ですわ」
彼女に話をさせていたら、日が変わっても話し続けているのではないかというくらいだ。
ようやく彼女が授業を始めようとしたのは、ミーナが二回目のお茶を淹れ直した時だった。
「ところでリーリエ様は、どうして途中で教育をおやめになって?」
授業カリキュラムを組むために、リーリエが受けている教育と受けていない教育を選別している途中で、メノーラが尋ねた。
「私……母が亡くなってから、教育を受けさせてもらえなくて」
事情をあまり詳しく話していいものか悩んだので、リーリエはかいつまんで自分の身の上話をした。
「まあ!なんとひどい……!悲劇ですわ!そんなこと、あっていい話ではありませんわ!」
床に崩れ落ちて、メノーラは瞳から大粒の涙をこぼし、胸元に隠してあったハンカチで鼻をかんだ。
あまりに泣くので「私は、もう大丈夫ですから」とリーリエの方が慰めるはめになった。
ミーナは天井を仰いで、三杯目のお茶を淹れ直し始めた。
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