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Chapter3
14 光の角
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「――頼む! アスリナさんを生き返らせてくれ! 俺が神様だっていうなら、この人を助けたい! リゼロッテちゃんに復讐なんかさせたくない!」
スマホに向かって、祈りというか願望をわめく。
「アスリナさん、どうか生きて――自分でリゼロッテちゃんに伝えてくれよ!」
愛していると、俺から伝えても何の意味もない。だってリゼロッテちゃんの本当の願いは、アスリナさんの命を救うことだ。
アスリナさんも、エリザベスさんも、生まれ持った強大な魔力に翻弄される生き方しか選べなかった。
制限された中でも希望を捨てずに抗い、精一杯生きる強さ。運命を受け入れ、愛する人と共に生きる強さ。
ゲームの中の話なら「ふ~ん悲しいストーリーだな」ぐらいにしか思えなかったと思う。
でも俺は今、この世界にいる。神様として。
ただのユーザーとしてゲームのシナリオに沿った行動しかできないなら、元の世界にいた時と変わらない。
もし、俺がこの世界に来たことに意味があるなら。神様のような力があるのなら。そんな理不尽な運命自体を変えることができるんじゃないのか。
望んだわけでもないのに、強い魔力を持って生まれてしまったがために、長生きできない。必死に努力したところで用意された設定には逆らえない。あらかじめ使徒になると決まっているキャラクターだけが選ばれる。
この世界に生きる人の手には負えない、そんなどうしようもない枠組みを、ぶち壊す力がほしい。
「俺は、叶えたい。アスリナさんを助けたいっていうリゼロッテちゃんの願いも、リゼロッテちゃんに生き延びてほしいっていうアスリナさんの願いも。だから――」
だから頼む。そう言い切らないうちにスマホが発光する。
ぶわりと温かな風に包まれたような感覚と共に、光の洪水に飲み込まれる。
光があふれているのにまぶしく感じない。まるで俺自身が光になったみたいに体が軽い。それに、この不思議な万能感は、水道橋ダンジョンの時と同じ。
「――よっしゃ! 光の角モードきた!」
こめかみの上辺りに、ぶわっとした感触の何かがあるのを手で探って確認してから、もう一度手を合わせる。
俺の祈りに反応するようにスマホから白銀の光がこぼれ出て、アスリナさんを包み込む。白く変色した髪が、見る間に豊かな黒に戻っていく。角は鮮やかな赤に。肌にも血色が戻る。
光が収まると、アスリナさんはゆっくりと目を開けた。
「アスリナさん!」
「――貴方様は」
アスリナさんは体を起こし、呆然と俺を見つめた。角の生えた俺の姿と、魔力痕が消えた自分の腕を見て驚いている。っていうか俺も本当にアスリナさんをよみがえらせることができて驚いていた。神パワーすげえ!
いや喜んでないでさっさと状況を説明しなきゃと思ったけれど、アスリナさんは素早く杖を掴んで立ち上がった。「はっ!」と気合のこもった掛け声と共に魔方陣を展開する。驚いて振り向くと、クソデカ蝿が俺たちのすぐ近くまで迫っていた。
そうだ、今はモンスターと交戦中だ。驚いている場合ではない。
アスリナさんが展開した魔法陣が発光する。周囲の温度が急激に下がり、白い霧に包まれたクソデカ蝿は凍りついたように動かなくなった。
「長くは持たない、どうか村の者たちを!」
「あっ、うん、まかせて!」
一撃でクソデカ蝿を仕留めたのかと思って一瞬気が緩んでしまった。
両手で自分の頬を張ってから神の眼を発動させる。敵の名前はデス・フライ。ステータス異常のアイコンが一つついている。
《 “凍てつく息吹”:敵単体の行動を封じる(2ターン) 》
なるほど、さっきの魔法は行動を制限する魔法だったのか。
アスリナさんがクソデカ蝿の動きを封じてくれている間に、まずは奇跡で村人を回復させよう。
「スマホ! 奇跡! ステータス異常を回復するやつ出して!」
スマホは心得たように俺の肩に飛び乗り、ばばっと光のパネルを表示させた。
《 【奇跡】“アマヒキ・カグラ”:全てのステータス異常を回復させ、1ターンの間ダメージを無効にする 》
よし、これならいける!
「ナラク ナラク ハレ シイナシ シイナセ ソジュ ソウ サツ
那辺の同胞よ 獣神の響動に靡け
――アマヒキ・カグラ」
舌を噛みそうな詠唱を読み上げてから画面に表示された矢印をスワイプする。
魔方陣から光の弾丸が放たれ、空高く上がって花火のようにはじけた。火の粉のような光がきらきらと舞い降りて、地面に倒れ伏す村の人たちの上に落ちる。光を受けた人々は即座に回復し、動きを取り戻した。
「みなさーん! 逃げてくださーい!!」
俺の叫び声を契機に、いち早く状況を把握した自警団の人たちが避難誘導を開始する。俺やアスリナさんの姿に驚き、ひざまずいて涙するお年寄りたちを抱えて退避していく。
よし、これならモンスターに攻撃系の奇跡をぶっ放しても大丈夫だ。そう思って詠唱しようとしたら、子供たちを乗せたままの馬車が村の外に向かって勢いよく走り出した。村の誰かが避難させた――んじゃない、まだ盗賊の仲間が、馬車を操っていたやつが残っていた。
スマホに向かって、祈りというか願望をわめく。
「アスリナさん、どうか生きて――自分でリゼロッテちゃんに伝えてくれよ!」
愛していると、俺から伝えても何の意味もない。だってリゼロッテちゃんの本当の願いは、アスリナさんの命を救うことだ。
アスリナさんも、エリザベスさんも、生まれ持った強大な魔力に翻弄される生き方しか選べなかった。
制限された中でも希望を捨てずに抗い、精一杯生きる強さ。運命を受け入れ、愛する人と共に生きる強さ。
ゲームの中の話なら「ふ~ん悲しいストーリーだな」ぐらいにしか思えなかったと思う。
でも俺は今、この世界にいる。神様として。
ただのユーザーとしてゲームのシナリオに沿った行動しかできないなら、元の世界にいた時と変わらない。
もし、俺がこの世界に来たことに意味があるなら。神様のような力があるのなら。そんな理不尽な運命自体を変えることができるんじゃないのか。
望んだわけでもないのに、強い魔力を持って生まれてしまったがために、長生きできない。必死に努力したところで用意された設定には逆らえない。あらかじめ使徒になると決まっているキャラクターだけが選ばれる。
この世界に生きる人の手には負えない、そんなどうしようもない枠組みを、ぶち壊す力がほしい。
「俺は、叶えたい。アスリナさんを助けたいっていうリゼロッテちゃんの願いも、リゼロッテちゃんに生き延びてほしいっていうアスリナさんの願いも。だから――」
だから頼む。そう言い切らないうちにスマホが発光する。
ぶわりと温かな風に包まれたような感覚と共に、光の洪水に飲み込まれる。
光があふれているのにまぶしく感じない。まるで俺自身が光になったみたいに体が軽い。それに、この不思議な万能感は、水道橋ダンジョンの時と同じ。
「――よっしゃ! 光の角モードきた!」
こめかみの上辺りに、ぶわっとした感触の何かがあるのを手で探って確認してから、もう一度手を合わせる。
俺の祈りに反応するようにスマホから白銀の光がこぼれ出て、アスリナさんを包み込む。白く変色した髪が、見る間に豊かな黒に戻っていく。角は鮮やかな赤に。肌にも血色が戻る。
光が収まると、アスリナさんはゆっくりと目を開けた。
「アスリナさん!」
「――貴方様は」
アスリナさんは体を起こし、呆然と俺を見つめた。角の生えた俺の姿と、魔力痕が消えた自分の腕を見て驚いている。っていうか俺も本当にアスリナさんをよみがえらせることができて驚いていた。神パワーすげえ!
いや喜んでないでさっさと状況を説明しなきゃと思ったけれど、アスリナさんは素早く杖を掴んで立ち上がった。「はっ!」と気合のこもった掛け声と共に魔方陣を展開する。驚いて振り向くと、クソデカ蝿が俺たちのすぐ近くまで迫っていた。
そうだ、今はモンスターと交戦中だ。驚いている場合ではない。
アスリナさんが展開した魔法陣が発光する。周囲の温度が急激に下がり、白い霧に包まれたクソデカ蝿は凍りついたように動かなくなった。
「長くは持たない、どうか村の者たちを!」
「あっ、うん、まかせて!」
一撃でクソデカ蝿を仕留めたのかと思って一瞬気が緩んでしまった。
両手で自分の頬を張ってから神の眼を発動させる。敵の名前はデス・フライ。ステータス異常のアイコンが一つついている。
《 “凍てつく息吹”:敵単体の行動を封じる(2ターン) 》
なるほど、さっきの魔法は行動を制限する魔法だったのか。
アスリナさんがクソデカ蝿の動きを封じてくれている間に、まずは奇跡で村人を回復させよう。
「スマホ! 奇跡! ステータス異常を回復するやつ出して!」
スマホは心得たように俺の肩に飛び乗り、ばばっと光のパネルを表示させた。
《 【奇跡】“アマヒキ・カグラ”:全てのステータス異常を回復させ、1ターンの間ダメージを無効にする 》
よし、これならいける!
「ナラク ナラク ハレ シイナシ シイナセ ソジュ ソウ サツ
那辺の同胞よ 獣神の響動に靡け
――アマヒキ・カグラ」
舌を噛みそうな詠唱を読み上げてから画面に表示された矢印をスワイプする。
魔方陣から光の弾丸が放たれ、空高く上がって花火のようにはじけた。火の粉のような光がきらきらと舞い降りて、地面に倒れ伏す村の人たちの上に落ちる。光を受けた人々は即座に回復し、動きを取り戻した。
「みなさーん! 逃げてくださーい!!」
俺の叫び声を契機に、いち早く状況を把握した自警団の人たちが避難誘導を開始する。俺やアスリナさんの姿に驚き、ひざまずいて涙するお年寄りたちを抱えて退避していく。
よし、これならモンスターに攻撃系の奇跡をぶっ放しても大丈夫だ。そう思って詠唱しようとしたら、子供たちを乗せたままの馬車が村の外に向かって勢いよく走り出した。村の誰かが避難させた――んじゃない、まだ盗賊の仲間が、馬車を操っていたやつが残っていた。
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