夜這いから始まる初恋

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ヘンリーは恋の仲介役に疲れていた

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 ロイドは目を覚ますために、濃く入れたコーヒーを頼んだ。クリームと砂糖を入れ、二杯を立て続けに飲む。

 やっと頭がすっきりして、眠気が飛んだ。そしてヘンリーに聞いた。

「さっきのは、なんだ。マチルダが俺のことを好きだって?」

「そうだよ。今朝、ご友人のミシェル嬢に彼女の様子を聞いたのさ。
 そうしたら、一昨日の夜のことを教えてくれた。彼女は酔っていたらしい。それで、実家で愛犬を抱いて寝る夢を見たんだそうだ」

「犬?」

 そういえば、とロイドは思い出した。初め彼女は、こらこら、大人しくなさい。じゃれつかないで、と言っていたような。

「じゃあ、人間の男だとわかったら驚いたんじゃないのか?」

 そういえば、そうかもな。そこのところ、どうだったのだろう。

 まさかロイドが嫌がる女に無理強いするはずがないし、大丈夫だとは思うけど、薬でおかしくなっていたはずだし。
 でも、ざっくり、両想い、という答えだけはもらったから、きっと大丈夫だ、きっと。

「さあ、あんまり詳しくは聞いていないけど、悪い印象を持たれている風ではなかったぞ」

 仲介役とは、かくも難しいものか。もう絶対嫌だ。

「誰かに先を越されない前に、今夜の夜会のエスコートを申し込もう。支度して彼女の部屋に向かおう」

 ロイドを促して、支度をさせ、その間に花束を調達した。そして花束を持って、二人して彼女の部屋の前に立った。
 ドアをノックすると、侍女が出てきて、彼女は知人の部屋に行って留守だと告げられた。メッセージカードを書いて花束と共に侍女に渡し、時間を置いて出直すことにした。

 
 ヘンリーはすでに疲れていた。
 ロイドは腹が減っていたので、まずは食べようと言うことになり、食堂に向かった。


「なあ、恋をするって疲れないか?」

 骨付きのステーキを食べながらヘンリーが聞いた。

「そうだな。疲労困憊だ」

「そうだよな。横で見ている俺でさえ、もうくたくただよ。お前も手が掛かるしな」

「悪い。そうだな、俺が変なんだ。今まで女性と付き合うのに困った覚えなんてないのに、なんでこんなにうまく回らないんだろうね」

 ヘンリーは、付け合わせの人参の甘さが、今日はなぜか染み入る、そんな事を考えながら赤ワインをがぶっと飲んだ。いつもと違って、野菜の慈味を感じる。
 これは、何なのだろう。やっぱり、すごく気疲れしているんだろうな。

 ロイドは、溜息を吐きながらも、ステーキをパクパク食べている。赤ワインとステーキだけ食べて、付け合わせは隅に寄せているのを見て、それ寄越せと言って、自分の皿に取った。なんだか気分は母親だった。

 母親って大変だなあ。まさか、そんな気分まで体験してしまうことになるなんて。

「おい、ロイド、余計な事を考えず、いつも通りで行ってみろよ。そうすりゃ、きっと、いつも通りにうまくいくさ」

 お腹がいっぱいになって、ようやく気分が持ち直した。そうだ、うまくいくさ。両想いなんだから。

 ロイドが思い出したようにのろけを言い出した。
「彼女いい匂いがしたんだよね。桃のような甘い香りがしたんだ」

 ああ、あの桃のカクテルを飲んだのか。あれは結構強いからな。思い当たる事があったので、教えてあげた。

「桃のジュースのカクテルが、あの晩は出ていたんだ。ウォッカに桃のジュースにミントのリキュールで、甘ずっぱくて飲みやすいんだけど強い酒でさ、女の子を酔わせるのにぴったりだとか、誰かが言っていたな」

 ロイドの顔色が変わった。

「まさか、誰か彼女を狙っていたのじゃないだろうな」

「え、そんな話は、ご友人からは聞いていないよ。たまたまじゃないか?」

 ええ、何?まずい事を言ってしまったか。大丈夫、彼女を襲っちまったのはお前だ、とか言うのもなんだし。
 
「まあ、この後もう一度彼女の部屋を訪ねよう。もう、帰ってきているかもしれない。早く、申し込むんだな」


 二人は、そのまま彼女の部屋を訪ねた。同じ侍女が出てきて、まだ戻っていないと告げられた。

「本当に部屋にいないんだろうか。もしかして避けられているのかも」

「そんなはずは無い。俺がちゃんと両想いだって聞いている。そんなに自信を無くすな。いつものお前に戻れ」


 そのころマチルダ達は、ミシェルのドレス一式を選び終わり、満ち足りた気分でアフタヌーンティーをいただいていた。


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