桜子さんと書生探偵

里見りんか

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番外編 牧栄進の憂鬱

2 牧家の事情

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 仕事があるという樹と別れ、桜子と新伍が、栄進えいしんを伴って牧家に向かう。

 道中、並んで歩く栄進が尋ねた。

「桜子姉さん。そういえば最近、時津ときつさんを見かけませんが、会社のほうがお忙しいのですか?」

 湖城家の家令の時津は、家政を取り仕切ると同時に、湖城重三郎の秘書でもある。
 基本的には重三郎の側についていることが多いが、日によっては邸内にいる。

 だが、今は……

 桜子は、何となく答えづらくて、新伍を見た。新伍が、「言うしかないのでは?」とばかりに、肩を軽く竦める。
 それで桜子は、

「実は、時津は今、三善中将のお宅にいるのよ。」
「三善中将……? というと、そこの五島さんと同じ?」
「えぇ、そうよ。」
「どうしてですか? あんなに湖城の家のことを取り仕切っていたのに……」

 桜子と新伍は再び顔を見合わせ、

「……まぁ、いろいろあったのよ。」

 今度は言葉を濁した。まさか、桜子宛に脅迫まがいの手紙を書いたことの咎だとは言えない。

「いろいろ……?」

 栄進が訝しげに尋ねようとした時、ちょうど、3人が牧家に着いた。おかげで、話はここで打ち切りになった。

 牧家は男爵家だが、裕福ではない。

 無論、庶民の家よりはずっと大きいが、それでも湖城家とは比べるべくもない。和風建築の建物は維新直後に建てたものだと聞いているが、敷地を囲む外壁や門、奥の蔵などは、もっと古い。

 木製の門をくぐると、馴染みの女中、ふさが顔を出した。
 房は、ふくよかな中年の女で、見た目通りの朗らかな声で、

「あら、坊っちゃん、おかえりなさい。歩いて帰ってらしたんですか? てっきり、今日はあちらで晩餐をいただいてくるものと……」
「二人に送ってもらいました。」
「二人……?」

 栄進の言葉につられて、房が視線を後ろに投げる。

「あらっ? 桜子さま。またいらしたんですか?」

 ついさっき「お気をつけて」と門前で挨拶を交わしたばかりの丸顔が、やや不思議そうに、頭を下げた。

「こちらの五島さんと一緒に、栄進ちゃんを送ってきました。」
「五島さん?」

 房は、「どちら様だったかしら?」と、わずかに首を傾げたが、新伍がすぐに、

「お初にお目にかかります。三善中将のお宅で書生をしている、五島新伍と申します。」
「あらあら、三善中将ということは、湖城様と仲のよろしい、あのおヒゲの方ですね。」

 それはそれは、お世話様ですと、改めて深々と頭を下げる房。

「新伍さんは、私の婚約者………候補でもあるの。」
「あら、まぁ。そうなんですか?」

 房が目を丸くした。

「お嬢さま、ご婚約をなさったのですね。存じ上げず申し訳ございません。」

 おめでとうございますと、頭を下げる房に、あえて訂正する必要はないだろう。

「それで、本日は桜子さまと一緒にこちらへご挨拶に? 生憎と旦那様は不在なのですが……」
「心配しなくても、五島さんは、そういうので来たんじゃありません。」

 栄進がピシャリと言う。

「五島さんは、細かいことに、よく気がつくと評判で、我が家の失せ物の件を解決してくれるつもりらしいです。」

「失せ物……というと、最近、よく物がなくなると皆が言う、あの騒動のことですか?」

 房の顔があからさまに曇った。

 その瞬間を見逃すはずのない新伍が、

「房さん、もしかして………」

 何かを聞こうとした瞬間、突然、新伍の身体が前のめりに揺れた。

「新伍さん?!」
「大丈夫です。ちょっと、よろけただけ。」

 背後から、女がぶつかったらしい。新伍が振り向いて、女の安否を尋ねると、

「も……申し訳ございません。」

 青い顔の女が慌てて頭を下げた。

「少し……少し、目眩がして……」
「ちょっと、お富ちゃん!大丈夫?」

 房が慌てて駆け寄る。

「あんた、顔が真っ青じゃない!!」

 房が驚いて声をあげた瞬間、富と呼ばれた女中が、房の腕の中に倒れ込んだ。

*  *  *

 房が富乃を部屋に連れて行くというので、その間、桜子と新伍は、牧家の応接間に通された。

 後から設えたらしい洋室の応接室は、綺麗だが、湖城の趣向を凝らした物に比べると、随分小さい。新伍と桜子は並んでソファに腰掛け、向かいに、栄進が行儀よく座っていた。

 ちなみに、このソファは昔、湖城家の客間にあったもので、牧家に譲られた。
 牧家が湖城から受けている経済的援助の痕跡は、日常に溢れている。

 トントンとドアを叩く音。ついで房が顔を出した。

「お待たせして申し訳ありません。」
「あの女中さんは、大丈夫でしたか?」

 新伍が尋ねた。

「えぇ。一応、部屋に寝かせて来ました。」
「かなり顔色が悪かったようですが、病気ですか?」
「本人は疲れただけだ、と言っていたのですが……」
「何か、気になることでも?」

 房の僅かな迷いを察知した新伍が、すかさず尋ねる。と、房は逡巡するように栄進を見てから、桜子と新伍に向かって、

「お富ちゃんは、近頃、その……あまり質の良くない者と付き合っているようで……」
「質の良くない者? 男性ですか?」

 房が頷く。

「お付き合いしているのか、単に付き纏われているのかわかりませんが、時々、呼び出されて会いに行っているようで、それで……あの……」

 房の目がキョロキョロと忙しなく動いた。かと思うと、吐き出すように一気に、

「ここ最近の失せ物ですが、もしかして、お富ちゃんが……いえ、あの……全てというわけではありませんよ。でも、もしかして、お富ちゃん、悪い男に脅されていて………」

 房の指先が、不安そうに震えている。

「本当は、こんなことを申し上げるべきではないのでしょうが……それでも、私、心配で……」
「落ち着いてください。」

 新伍の言葉に、房はハッとして、慌てて、頭を下げた。

「申し訳ありません。つい、取り乱してしまって……」
「いえ、大丈夫ですよ。僕は、それを調べに来ているのですから、一つの可能性として、頭に留めておきます。」

 それから新伍は、「順を追って聞かせてください」と、房を空いた席に座るように促した。

「お富さんは、いつ頃から、その男と付き合い始めたのですか?」

 房は記憶を探るように眉根を寄せた。

「お富……富乃とみのというのが、あの子の名なのですが、富乃がその男と出会ったのは多分……2~3ヶ月前じゃないかしら? ひょっとしたら、もう少し前かも。」

「物がなくなり始めたのは、いつ頃ですか?」

「それは、ここ2ヶ月くらいだと思います。」
「どんな順に失くなったのか、覚えている範囲で教えてください。」

 房は、記憶を辿るように考え、

「……初めは、買ったはずの鶏肉がなくなって…豆がなくなって……でもそれは、皆さん、鳥か何かの仕業だろう、と。それから、旦那様の下駄がなくなって…えぇと、それから………」

「母の帯留めです。」

 栄進が横から口を挟む。

「えぇ、そう……そうですね。」

 それに房が、歯切れ悪く頷いた。

「どのような帯留めですか? 意匠や宝飾は?」
「銅製で、菊の花の彫り物です。宝飾はついていませんが、菊の花びらの彫りが、とても丁寧で美しいところが、奥様の気に入りでした。」

「失くなったときの状況をお伺いしても?」

 新伍に問われ、房は、記憶を辿るように、考えながら、

「あの時は…私が、お帰りになった奥さまの着替えをお手伝いして……それで、鏡台に置いたはずの帯留めが、いつの間にかなくなったのです。」

「置いておいたものが? 奥さまの部屋の中で?」

「お着物の片付けが終わったら、後で仕舞うつもりで……ただ、その途中で旦那様が帰っていらして、頼まれて、居間にお茶を運んだので、少しの間、部屋から退出していましたけど……」

「その時、奥さまは部屋に?」
「いえ、いらっしゃいませんでした。」

 一緒にお茶を飲みたいと言ったので、房は、片付けは後にして、二人分のお茶を用意した。

「それで私は、お茶をお出ししてから、部屋に戻ったんです。」
「と、いうことは、部屋から皆が出ていった僅かな間に帯留めが消失したのですか?」

 房は、少し躊躇ってから、

「……実は、私が戻ってきた時、奥さまの部屋の側にお富ちゃんがいて…」

 と言っても、部屋から出てきたのを見たわけではない。桶と雑巾を持っていたから、掃除をしていたのだろうと、そのときは気にもしなかった。

「帯留めも、初めは私が置いた場所を勘違いしたのかと思っていて……でもいくら探しても見当たらないし、後で、もしかして……と思ったのですが……」

 富乃に帯留めの行方を知らないかと聞いたが、「知らない」と言われたという。

「それ以上追求するのは、疑っているようで気が引けて…そもそも、私の不注意で失くしたわけですし……」

「部屋の窓は、どうでしたか?」

 新伍が尋ねる。

「…窓………は、閉まっていたような気がするけど……いえ、やっぱり開いていたかしら?」

 房の記憶は曖昧らしく、「よく覚えていないわ。」と繰り返す。

「もし窓が開いていたなら、やっぱり鳥かもしれませんわね。カラスなんかは金属のものが好きだといいますし……」

「いや。窓は閉まっていました。」

 栄進が、房の期待に満ちた曖昧な証言を、すぐに否定する。

「窓が閉まっていたから、鳥の仕業じゃないだろうと、父様が言っているのを聞きましたので。」
「そう……だったかしら? いえ、坊ちゃまがそういうのなら、そうだと思います。」

 どこかガッカリしているように見える。状況的に富乃が疑わしいが、できたら犯人であって欲しくないという気持ちを表しているように。

 結局、房の手落ちということになった。

「普段遣いものもなので、決して高価なものではないのですが、それでも当家は、余裕があるわけではありませんので……」

 房が申し訳無さそうに栄進を見た。

 牧家が、湖城の援助を受けているのは、女中でさえ、よく理解している。それも、優秀な栄進がいるお陰で、援助がより一層手厚くなっている、ということも。

 少しの間、顎の下に手を添え、考えるような仕草をしていた新伍は、

「わかりました。それでは、現場を少し見せてもらってもいいですか?」
「現場だなんて、物騒な……」
「五島さん、そんな言い方をしないでください。」

 房と栄進が揃って、顔を顰めた。

「あぁ、すみません。」

 新伍はすぐに詫びると、

「家の中を見せてください。奥さまの部屋と、それから、下駄のあったところを。」
「栄進ちゃんの部屋はいいんですか?」

 桜子が尋ねると、新伍が不思議そうな顔をした。

「あの、ほら……私の根付は栄進ちゃんの部屋で失くなったので。」

 新伍は、「あぁ」と、両眉をキュッとあげた。

「桜子さんの失せ物は、全て見つかっているので、後でいいでしょう。まだ見つかっていないものを先にしましょう。」

 新伍の指示で、四人は、まずは栄進の母の部屋に向かった。

「奥さまの部屋は、女中部屋の手前です。」

 隣は女中の部屋、そして、その奥がお勝手ーーーつまり台所。

「奥さま、よろしいですか?」

 房は部屋の外から声をかけると、皆を待たせて、先に一人だけ中に入った。

 新伍たちの来訪の目的は、先程、富乃が倒れている間に、栄進から母に告げてあるという。その上で房は、女主人の部屋に探偵を立ち入れても良いか、確認にいったのだ。

 房はすぐに出てきて、

「どうぞ、お入りください。」

 房に促され、新伍と桜子、栄進が続いて入る。
 部屋の中には、鏡台に小さな文机。そして衣裳箪笥。それだけで部屋は一杯。寝室は兼ねていないのだろう。

 部屋の中では、品の良い中年の女が机に向かって座っていた。

「伯母様、お久しぶりです。」
「桜子ちゃん、こんちには。」

 栄進の母は、形の良い眉を柔らかく下げた。

「先程も、栄進のところに来ていたのよね? 挨拶できずにゴメンナサイね。ちょっと出ていて、少し前に戻ったところなの。」
 
 整った目鼻立ちは、桜子の亡き母とよく似ている。だが伯母は、母と違い、頬も体つきも、健康的な中年女らしい丸みを帯びている。
 伯母は新伍に目を向けて、

「貴方が五島新伍さんね。重三郎さんから、話は聞いているわ。随分と気に入って目をかけているのだとか……」
「恐縮です。」
「今日は、うちの失せ物を探してくれるのよね。」

 新伍が、「早速ですが……」と、帯留めが失くなったときの話を尋ねた。

「そうねぇ。もう一月ほど前のことだから……」

 伯母の話は、房の話した内容とほとんど一緒だった。ただ、房に比べて記憶が曖昧で、鏡台に置いていたような気はするが、明確には覚えていないという。

「ごめんなさいね。房に任せっきりだから……」

 そして、勿論、富乃が部屋の周りにいたことも知らない。

「確かに、その時間はいつも窓の拭き掃除をしているから、お富がいても不思議には思わないのだけれど……」

 伯母は、房とは違い、富乃に対する疑いを抱いてはいないらしい。

 新伍が、部屋に唯一ある小さな窓の建付けを確認するように、カタカタと揺らした。

「窓は閉まっていたと聞きましたが、窓の鍵はどうだったんでしょう?」

 伯母と房が顔を見合わせた。

「そうねぇ……どうだっかしら?」
「私も覚えていません。」

 新伍が窓を開けて外を見る。思ったより、直ぐ側に屋敷の外壁がある。

「窓は西向きですか。でも、ここは家の裏側だから、回り込むのは大変そうだ。」
「そうですね。この時期は草も茂っておりますし……」

 房の言う通り、かなり背の高い雑草が生い茂っている。一ヶ月前だと、今よりだいぶマシだろうか、と新伍が呟く。

「うーん。でも、窓の鍵が開いているかも分からないのに、短い時間のうちに、裏庭を通って、ここまで来るのは、現実的には考えにくいかな……」

 新伍は、窓をしめた。

「分かりました。ありがとうございます。」

 4人が部屋を出ようとすると、伯母が、「栄進。」と呼びとめた。

「はい?」
「あなたは、お部屋に戻りなさい。」
「え? なぜですか? 私も一緒に……」
「探偵ごっこは、五島さんにお任せして、貴方はお部屋に戻って、勉強するのよ。」
「で……でも………」

 尚も食い下がろうとする栄進に、伯母は背筋をしゃんと伸ばして、

「貴方は湖城家から援助を頂いている立場なのよ。遊んでいる場合ではないでしょう?」

 桜子には、ひたすら優しい伯母だから、栄進へのこの態度に、少なからず驚いた。

「………分かりました。」

 栄進は、ギュッと下唇を噛んで頷く。
 肩を落とした栄進が、部屋を出るのを見届けると、伯母が改まって、

「桜子ちゃん。少しいいかしら?」
「えっ……と、先程の続きですか?」
「いえ。違うの。栄進のことよ。」
「栄進ちゃんの?」

 伯母は、栄進の出ていった扉にチラッと視線を投げてから、躊躇いがちに、

「あの子、桜子ちゃんのことをとても慕っていたでしょう? それこそ、本当のお姉さんみたいに……。だから、桜子ちゃんの婚約を知って、動揺しているのではないかと思うの。」

 言ってから、慌てて、

「あっ、違うのよ。私は、桜子ちゃんの婚約はとても喜ばしいことだと思っているの。ただ、栄進が勉強に身が入らなくなるのではないかと心配で……」
「だから、先程、あんなに厳しい言い方を?」
「厳しい?」

 伯母は、一瞬、虚を疲れたような顔をしてから、すぐに、

「……あぁ、そうね。あの子は湖城に出さなくてはならないから、きちんとしなくてはと、いつもつい、栄進に厳しくしすぎてしまうのよね。」

 皆にも注意をされるわ、と朗らかな面差しが少し陰る。房が横から取りなすように、

「仕方ありません。栄進さまは、産まれる前から湖城に行くと決まっていたのですから。」
「えっ?!」

 初めて耳にする話に、桜子は思わず声を上げた。

「どういうことですか?」

 問い返す桜子に、ハッと慌てた房が、

「申し訳ありません。」

 うっかり口が滑ったとでも言わんばかりに、頭を下げた。

「あの……伯母様。栄進ちゃんが産まれる前から湖城に……とは、どういう意味ですか?」

 問われた伯母は、「仕方ないわね。」と、ため息をついた。

「私の妹ーーーつまり、貴女のお母様は、とても身体が弱かったでしょう? 本来なら、あの子は後継ぎを産まなければならない立場。にも関わらず、貴女を産んでから床に伏せがちで……」

 改めて聞くのは初めてだが、母の立場は、なんとなく理解していた。

「あの子だけじゃない。あの頃は、私たちも………」

 伯母は、そこで一回言葉を切った。続ける言葉を選んでいるような間の後、

「私たちも、もし……あの子になにかあったら、湖城からの援助を打ち切られても仕方がないーーーいえ、本当は、いつ打ち切られるかと、ビクビクしていたのよ。」

 母は自分を責め、離縁を申し出たこともあるという。
 でも、桜子が知る限り、父は母をとても大切に思っていた。例え母の身体が丈夫じゃなくても、離縁になど応じるはずがない。それは、断言できる。

「貴女にも分かるでしょうけど、重三郎さんは、離縁には応じなかった。それで、私は栄進を身籠ったと知ったとき、重三郎さんに申し出たの。もし、この子が男の子だったら、湖城家に役立てて欲しい、と。」

 自分を責め続ける妹と……それから自分たちの打算的な援助のためにーーーと伯母は言った。

「うちには、すでに長男……跡取り息子がいたからね。」
「そんな?! それでは栄進ちゃんは、まるで……」

 まるで人質のようだ、という言葉を桜子は飲み込んだ。それを言葉にしてしまうと、酷く栄進を侮辱しているような気がしたから。

「………知りませんでした。」

 桜子の知らない、大人たちの取り決め。その期待を一心に背負う子。

「栄進は分かっていますよ。勿論、細かい経緯は知りませんが。それでも、自分は牧ではなく、湖城で身を立てるのだ、と覚悟しています。」

「……まだ10歳の子どもです。」
「えぇ、そうね。でも、栄進は嫌ではなかったはずだわ。湖城家には、桜子ちゃんがいるから。」
「私……ですか?」
「栄進は、桜子ちゃんのことが大好きだから、だから、頑張っていたのよ。」

 そんなふうに言ってもらえると、じんと胸が熱くなる。桜子とて、自分に懐いてくれる、歳の離れた従兄弟はかわいい。

「貴女にどうしろ、というわけではないの。でも、どうか…あなたを慕う栄進の気持ちだけは、分かってあげてちょうだい。」

「はい。栄進ちゃんの力になれるようにいたします。」

 桜子は、改めて、栄進のことを大切にしてあげようと、心に誓った。
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