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09.アッシュ、正体を明かされる

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 アッシュは眩しくて目を覚ました。そして、隣で寝ているオバケちゃんを見て、朝日の中で幸せに微笑もうした瞬間、──寝ぼけていた頭がしっかり目覚めた。

「な……なんだ……!?」

 衝撃が男をはっきり覚醒させた。

 白い髪、生気のない蝋のような白い肌、水晶の瞳を持つ能天気なアンデッド・シーツオバケだったはずだ。
 明るい朝日の中の彼女は、少女とは言いきれない身体つきの女になっていた。
 アッシュは首をひねり、無精髭が生えた顎を触る。

 ……そういえば、コトの最中に成長していた覚えがある。だが、肌も髪の色も身体付きも別人じゃねぇか。

 小ぶりだったおっぱいは巨乳になり、朝日を受けて影をくっきり作っているし、静かな寝息で上下するだけでたゆんたぷん、ぷるるんと見事に揺れ動く。豊かに膨らんだおっぱいと胸もとには、昨晩アッシュがつけたキスマークがたくさん着いている。

 毛布で隠れているその腰は、成熟した丸みだと毛布のしわが教えている──だけではなく、アッシュはぷりんぷりんの尻をしっかり撫でて揉んだ。

 毛先に向かい金から赤に色が変わっている髪は、秋の紅葉のグラデーションだ。その髪をそろりそろりと撫でる。最初は信じられなくて撫でていたのに、繰り返すうちに心の中が愛しさでいっぱいになった。

 この珍しい髪はどこかで見たな。……どこでだっけか。

 聖典の中で。神殿の絵画の中で。秋のグラデーションの髪を持つ女神ダミアはその美を称えられていた。
 この特別ダンジョン・ハロウィンの塔の入り口にも女神を称える絵画があった。

 もしかして、実は女神だった? だけどなぜシーツオバケの姿に? というか、マジで女神なのか? いや、女神とは限らんが……。

 薄い瞼をぴくりと動かし、身じろいだオバケちゃん──女は、ゆっくり目を覚ました。
 透明な水晶だった目は、オパールのように偏光しキラキラと朝日で輝いていて麗しい。

「ふあ……ぁあ。おはようございますです、アッシュさん」

 顔の作りと声と喋り方はオバケちゃんそのもので、アッシュの混乱はますます激しくなった。

「おま、おまえ……じゃない。あんた、じゃなくて、あなたは何者なんだ?」

 寝ぼけ眼をごしごし擦ったオバケちゃんの面影を持つ美女は、はんなり微笑む。

「むふふふ……ん。実はオバケちゃん、特別ダンジョン・ハロウィンを作ったラスボス、第五三二八代目の女神ダミアなのですよ」

 眠たそうにくてんと頭を倒すと、グラデーションの髪は柔らかそうにはらりと動くし、おっぱいがたゆんっと揺れた──のを、アッシュは目で追いかけた。

「オバケちゃん──わたしがシーツオバケの姿になっていたのは、実は婚活の為だったのですよ」

「は?」

 婚活。アッシュでも知っている結婚するための活動だ。それをなぜ女神が?

「わたしは秋の豊穣を司る女神なので、霊的な負のエネルギーに打ち勝つ生エネルギーを持つ男性が第一条件だと、お母さまが譲らなくてですね。
 しかたがなく霊的な負のエネルギーを持ったアンデッドを集めて、秋のイベント・ハロウィンに合ったダンジョンを作ったのです。
 そこで生エネルギーをたっぷりたくさん持ったお婿さんを探していたです」

「……はぁ」

 唐突すぎて、本当にぽかんとしてマヌケな返事しかできない。

「でも、わたしは女神であることと、この姿じゃなくても愛してくれる……生まれや見た目よりも、心を大切にしてくれる男性がよくて……。それで、シーツオバケの姿をしていましたです」

 女神というステイタスとその美貌なら、掃いて捨てるほど男がわらわら言い寄ってくるだろう。選びたい放題なのに、彼女は女神である前に女の子として愛されたかったのだと、アッシュは噛み砕いた。
 しかし、やっぱり飲み込みが悪い相打ちしかできない。

「はぁ」

「たくさんの人に何度も斬られ、叩かれました。敵なのだから当たり前なのです。でも、おにいさんは……アッシュさんだけはお菓子をくれて……、優しく笑ってくれて……」

「それはたまたま優しくされたからだろ?」

 いいえ、と女神は首を振る。鮮やかな紅葉の髪も動けば、ふくふくとしすぎたおっぱいがぷるぷる揺れる。ツンと上を向く艷めく薄ピンクのそれを目で追わずに何を見るというのか。

「わたしは胸がいっぱいになり、お礼も言えなくなってしまって……。あの時はお礼も言えずに立ち去ってしまってごめんなさい」

 女神は深々と頭を下げた。さらりと動く秋色の髪もさることながら、ぽよんぽよよんと弾んだたわわに目を奪われた。きっともちぷるの触り心地だろうと、容易く予想できる。
 むっつりスケベなアッシュは、そんなことをおくびにも出さない。

「ああ、いいって、そんなに改められることじゃない」

「わたしは嬉しくて、胸がきゅうってなったんです。もらったキャラメルよりも甘くてほんわかするけれども、レモンキャンディよりも酸っぱくて……。
 優しくしてくれて、ありがとうございましたです」

 丁寧にお辞儀をするこの子は、本当に能天気なシーツオバケだったのか疑いたくなる。声や仕草、顔の作りが変わってなくても別人のようだ。

「わたしはラスボスらしく、おうちに帰ってその時を待ちました。それからしばらくして、アッシュさんが危険だと虫たちに教えてもらい、ここに来るように誘導してもらったのです」

 ここに来るまで大きな戦闘はなかったし、アッシュは上級狩人の勘を信じて安全な方をへと歩いた。

 もし、命令されていたら俺は反抗していただろう。上級狩人のプライドを傷つけないよう、それとなく安全な方を選ぶように気遣ってくれていたんだ。

 女神の気配りに改めて気持ちが和らいだ。そして、昨晩の想いが穏やかに心を満たす。

「たくさんケガをして、くたくたにくたびれたアッシュさんが早く元気になってよかったです。……ほんとうに、よかったです」

「あの時は無茶な頼み方をしてすまなかった。あんたの献身さと懐の深さのおかげで死なずにすんだ。感謝の言葉をありったけ言っても感謝しきれないが、言わせてくれ。助けてくれてありがとう」

 今度はアッシュが頭を下げると、今度は女神が慌てて手を振った。

「アッシュさんだったからです。アッシュさんだから、いいところを見せたかったんです。……オバケちゃんは……、わたしはアッシュさんにもう一度会えて……不謹慎かもですが嬉しかったですから……」

「俺ももう一度会えて嬉しかった。だが……イマイチあんたがあのオバケちゃんだったとは信じきれない」

「むぅぅん。どうしたものですかね」

 女神はたわわな胸を隠すように腕を組み、うーんと考えるしぐさをする。そんな姿も可愛らしくて、アッシュはヤニ下がった顔になるのを堪えた。

 彼女オバケちゃんがアンデッドじゃないとアッシュは、薄々感じていた。
 神聖魔法の身辺清潔リフリセッシュが使えたのも、痛散の魔法の効果があったのも、アンデッドではないからだ。

 なにより、この家が襲われなかったのは、ダンジョンのボス……と言うか、ダンジョンを作った女神がいるからだ。
 ヤってる時にも身体の変化はあったし、目の前の女には面差しも声も喋り方もキスマークも据え置きだ。オバケちゃんが女神ダミアだと言われても納得できる。

 だが、アッシュは上級狩人の勘でこう言う。

「あんたの味をみて、俺のかたちを覚えているか身体に聞こう。そうしたら疑いなく信じる。物証は時に雄弁だからな」

「……んぅ? 身体に聞くですか? わたしはさっきからちゃんと言ってるですよ?」

 華奢な肩を掴んでベッドに押し倒す。見事な秋の紅葉の髪がシーツに広がるのも、大きなおっぱいがたゆゆんっと揺れて流れすぎないのも絶景だった。

「あんたがアンデッドじゃなくて……消えてなくてよかった。婚活してるなら俺はどうだ? 俺はあんたを離したくないんだが……。その、……俺の嫁になる気は?」

 女神は大きな目をぱちくりとさせて、たおやかな手をアッシュの精悍な頬にそっと添えた。

「わたしをお嫁さんにしてくれるですか? 嬉しいです。……わたしはアッシュさんのお嫁さんになりたいです!」

 身体の相性がやたらめったら良いのだから、きっとほかの相性もいいだろう。
 性格や価値観の違いはゆっくりと歩調を合わせていけばいい。命の恩人で、懸命にもてなそうとしていた健気さを知っていれば、百年先すら添い遂げられそうだ。
 彼女より己が先に冥府に行くことになっても。

「ああ……こういうのは慣れていなくて……だな。ダンジョンを抜けたら正式に愛を誓いたいのだが。いいだろうか?」

「……はいっ」

 少女らしさをほんの少し残す女神は、幸せそうに微笑んだ。


 げに、ラブコメディとはよきものである。なんだかんだがなくたって、本人たちのフィーリングで惚れたはれたに結論づく。いや、強引でした。

 さて、そういうメタな地の文は置いておいて、アッシュは女神の身体に直接本人確認をばっちり二回もした。ぷりんぷりんのお尻は寝バックに最適かつ最高であったし、ガン突くたびにたわわなおっぱいがゆさゆさ揺れる騎乗位も風情があり尊くて以下略。

 休憩をしたその後、身辺清潔リフリセッシュの神聖魔法で身を清めて身支度をし、魔法の大釜から出てきた朝食をとり、外に出る支度をした。


  …✮…♱…✮…


 アッシュはいつもの上級狩人らしい姿だ。使い込まれた愛用の防具や武器が男らしい身体を立派に見せる。
 女神はシーツではなく、いかにも女神な絹の光沢が眩いキトン風のドレス姿だ。秋の女神らしく、葡萄や木の実、秋の花々で装飾されていて美しい。
 どこから見てもシーツオバケには見えないが、可憐な顔と声、ゆるふわの雰囲気はそのままである。

 どこをどう褒めていいのかわからないほどの優美さに、アッシュは嫁にもらっていいものかと戸惑ったが、それは次の言葉で掻き消える。

「アッシュさん。とうとう霊樹の王冠を手にする時が来たですよ! さあ、張り切って手にしちゃいましょう!」

 喋りかたがすべてを台無しにしている。
 それもそれで彼女の魅力なのだろうが、やや危うげである。いろんな意味で。



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