年下の彼は性格が悪い

なかむ楽

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4、八千代17歳、菊華22歳─夏

26.笑顔の挑戦者④

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「酒臭い」

 八千代がくつくつ笑うので、菊華はさらにむくれた。

「じゃあ、しなくていいよ」
「抱っこしてる時にキッカからしてきた」
「忘れてぇ」

 笑いながら八千代が、菊華のロングTシャツをスルリと脱がせた。カップ付きキャミソールとショーツだけになってしまい、菊華は腕で胸を隠した。

「……やっくん、なにするの? 明日も夏季講習でしょ?」
「学校は休みだよ」

 朝早く起きる必要ないと言っているのだ。
 キャミソールをが捲られ、ツンと上を向く胸の先に八千代が口をつける。菊華の腰が思わずピクリと揺れた。

「もう、夜遅いよ」
「……こんな時に年上ぶるの? 卑怯だな」
「卑怯なのは……ん、やっくんだよ」
「どうして?」

 菊華を見上げる八千代は、胸の先をちゅうと吸い反対の胸の先を指で掻く。その目の色気に菊華がクラリとした。
 見るんじゃなかった……。すごく……。
 十七になった八千代は、ほとんど大人だ。それなのに、少年とも青年ともつかない色気がある。この年の頃の菊華にはなかったものだ。大人に囲まれて育ったせいなのか、八千代本人が大人びているからか。

「ふ……。怒らないし……んあっ、つよく、吸わないで」
「怒られたいなんて変わった趣味」

 固くなった胸の先を軽く噛まれて、菊華は堪らずに声を上げた。

「私……ばっかり、やっくんがすきで」

 甘やかされて溺れている自覚が菊華にはある。いつからパワーバランスが違うのか。八千代がほしくて欲しくて堪らないのを必死に抑えているのだ。心をくれるのなら身体も欲しい。欲が深いのは八千代が好きだからだ。
 ──でも、今日は抑えなくてもいいよね?

「やっくん……今日は……」

 膝から降りた菊華が八千代の膝へ頭をつけた。
 酔ってフラフラの菊華に無理をさせているのだと、八千代は少し慌てた。が、違う意味で大きく慌てることになった。

「な、なにしてるんだよ!?」

 八千代の室内着のハーフパンツとトランクスを、菊華が一気にガッと下げたのだ。
 
「やめろって」

 本日の遠藤の講義で使用したウィンナーより確実に大きい八千代のソレ。初めてこんなに近くで見て、菊華は一瞬ためらった。
 やっくんが小さかった時とカタチが違う!

「キッカ!」

 八千代がハーフパンツを上げようとするので、菊華は目を瞑り思いきってソレを口に含んだ。
 一瞬にして八千代がフリーズした。今まで八千代が体験したことない感触は、腰から先が力が抜けてしまいそうなぬくもりと柔らかさだった。好きな菊華が自分のをいきなりソレを口にした状況は整理がつかず、初めての快感に呑まれていく。

 一方菊華は、遠藤のウィンナー特訓を思い出しながら、堅いソレの根元に手を添わせて拙く奉仕する。遠藤は言った『こーしちゃえばトリコだって! 襲われること間違いなし!』と。
 チラリ見れば、八千代の頬を上気させて快感に歪む眉、微かに漏れる吐息が色っぽい。どれもが自分がさせたのだと菊華の母性本能に似た感情が揺れ動いた。

「気持ちいい?」

 菊華が聞くと八千代は、うんと頷きながら菊華の頬を指で擽る。

「……無理、しなくていいから」

 熱を持った目と吐息とは裏腹な言葉がかわいい。先ほどの躊躇いはどこへいったのやら。

「無理なんてしてないよ」
「もう、いいよ」

 誘惑を耐えた八千代が、菊華の肩を押し離した。微熱があるような顔は、菊華に大きな期待を持たせた。が、八千代は、大きく息を吐いてハーフパンツを履き直した。
 ──あれ!?

「もう寝よう」
「気持ちよくなかった?」
「そういう問題じゃないだろ」
「じゃあ、どういう問題なの?」

 八千代が頭を抱えた。色々思うところはあるが、酒の勢いでされたくなかったし、酔っ払いに言いたくないからだ。

「俺は、責任取れるまで子供ができる行為はしたくない」
「でも、途中までいつもしてるでしょ」

 それとも、女からされたくなかったのか。菊華だって、八千代に全てあげたいし、八千代の全てがほしいのだ。感情が溢れてぐるぐる回る。
 揚葉の若さが頭をちらついた。同級生。同じ年。ブレザーとプリーツスカート。高校生のカップル。

「……私と……同じ年でも……? 同級生だったら最後までしたよね?」
「そんな〈もしも〉なんて言ってない。俺はそのままの菊華がいいんだよ」

 立ち上がった菊華を八千代が引き寄せ抱きしめた。抱きしめてもらうのは好きだ。けど、これは違う。アテにならない菊華の勘が言っている。

「……じゃあ、どうして? もしもの時の責任なら、私にもあるでしょ? 私にも背負わせてよ」
「身体的にも女の方が負担が大きいよ」

 法の問題はクリアーしている。親を通して真剣に交際しているのだ。それに、今は受験生でもなければ、試験期間中でもないから煩わせるものはないはずだ。
 八千代がどうして最後までしてくれないのか疑問だ。

「……私がオバサンだから」
「違うよ。こういうことは無理をしてすることじゃないだろ?」

 優しく背中を撫でる手は、大人と同じで大きくて優しい。だけど、抱きしめられていて八千代の顔が見えない。

 無理にしてない。もう怖くないし……ううん、やっくんだから怖くてもいい。
 好きだからするんだよ。好きだから身体すら繋げたいの。そう思うのはワガママかな。六歳年上じゃなかったら……。

「ごめん、やっくん。今日は帰るから」
「送ろうか?」
「すぐ隣だよ?」

 背中を摩る手が止まった。
 菊華は自分から距離をあけた。『行くな』と手を引かれるかと思ったのに、「そう。気をつけて」寂しそうに八千代は言うだけだった。



 早足で帰った部屋は、真っ暗で蒸し暑くてじめっとしている。電気をつけることなく菊華はベッドに歩み寄った。
 さっきまでは幸せな息しか出なかったのに、今はこの世の不幸を全部背負ったような大げさな息しか出ない。
 八千代を遠く感じて涙が出そうだった。いつだって近くで菊華を見守ってほしい言葉をかけてくれるのに。

 やっくんがなにを考えてるか……わかんないよ。

 ぼふっと倒れたベッドは、真夏の篭った熱気が乗っていてクーラーで冷えた身体に不快だった。
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