年下の彼は性格が悪い

８、番外編(年齢、時列ばらばら)

【番外編】ハロウィン！！(2020)

「Trick or Treatだよ、やっくん」


　国民的ゲーム、モリオブラザーズの仮装をして上機嫌の菊華は、17歳の八千代に手を差し出した。

　なんでモリオなんだよ。もっとかわいい仮装があるだろ。こんな八千代の呆れた心の声など露知らず。来月23歳になる菊華は、ドヤ顔でモリオっぽくジャンプしてみせる。

　頭が痛い……。

　色々と困らされるが、こんなわけのわからないことで困るのは初めてだ。一緒にいて飽きないのはいいが、意外性がありすぎる。


「お菓子ちょうだい？」


　大人が子供にたかるな。言いかけた言葉をグッと飲み込む。気にしている年齢差を大声で言うのは敗北ほかならない。


「ちょっと待ってろよ」


　八千代は玄関からダイニングへ向かい、パントリーを開ける。菊華が大好きなブランドのクッキーの缶を見つけて、ニヤリ口の端を吊り上げる。

　玄関に戻ると、姿見鏡を見ながら髭を直している呑気な菊華がいた。


「その格好でご近所を回るの？」

「先週言ってた、友達とのハロウィン飲み会だよ」

「飲むのは、程々に」


　酒豪なのを知っているが、それゆえ失敗が数多だ。

　ただでさえ鈍臭いんだ、菊華は。

　八千代は手にしたクッキーの缶を差し出そうとする。


「はい」


　困った顔で笑っているのを、菊華は都合よく考えているようだ。

　──この鈍感。


「今日には帰ってくるよ」


　すまなさそうに言いながら、クッキーを受け取ろうと手を出したから、八千代はクッキーをひょいっと頭の上に掲げる。菊華がぴょんっと飛べば、もっと高くに。時々フェイントを入れながら、右に左に繰り返す。飛べないモリオはただの髭だ。

　ぜぇぜぇ息を上げる運動不足の社会人を後目に、しれっとした顔で缶の蓋を開け、クッキーを1個口の中に放り込む。

　サクサクとした食感とバターの濃厚な香りが口の中に広がり、紅茶が欲しくなる。これは菊華が大好きなやつだ、と納得をする。


「もー、やっくんっ。なんで食べちゃうの？」

「悪いことしたんだからお菓子はありません」

「なにも悪いこともイタズラしてないよぅ！　そこのクッキー大好きなの知ってるよね？　ね？　意地悪しないでクッキーちょうだいよぅ！　食べたぁい！」

「たかがクッキーでなにをそんなに必死になってるんだ。お菓子目的なら初めから、お菓子くださいお願いしますって頭下げなきゃだめだろ？」


ぐぬっと呻いた菊華は、素直に「クッキーください……」と言い直してハッとする。


「なんで頭下げなきゃなの？」

「イタズラだよ、イタズラ」


　ふふんっと笑ってやると、菊華がムキーッと怒る。いつまでも変わらない菊華が見れるのは自分だけの特権だと納得をして、つけ髭の下の唇にクッキーをふにっと当てる。


「帰ってきたら、お気に召すようなイタズラも意地悪もして差し上げるよ」


　飛びっきりの笑顔で言ってやると、さすがの菊華もわかったのか、顔を真っ赤にしてクッキーをサクッと噛んで、ゆっくりもぐもぐ咀嚼する。


「はい、いってらっしゃい」

「ちょ、ちょっとまって、どういう意味？」


　髭付きモリオ姿のカノジョの背中を押して、玄関を開ける。背中を抱いているような錯覚をさせると、菊華はより泡を食う。いつまでも慣れないのもいいが、いい加減慣れろ。とも思う。


「変なシンデレラ」

「シンデレラ？」


　豪奢なドレスではなく、モリオでドレスアップしているが、今日中に帰ってくる魔法は八千代がかけた。


「なんでもないよ。帰りも気をつけて。くれぐれも飲みすぎないようにね」


　ひと押しして、にっこり。


「あっ、えっ、い、いってきま……」


　仮装で隠れていない華奢なうなじにちゅっとキスをすると、菊華は「うわぁ」とたいへん色気のない声を上げて真っ赤な顔で、八千代を睨みつけた。



　魔法使いが王子さまだったと、この無神経で鈍感なシンデレラが気がついたのは、帰宅してからだが、それは数時間後の先の話。






長くなるからここで終わる！






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元ネタ

名無しのYに『Trick or treat』と言うと、ちょっと困った顔をして「はい」と、お菓子をくれるのかと思いきや自分で食べやがります。

#shindanmaker

https://t.co/z7wa7iIQ4H


「きくぞー、モリオ似合うじゃん。ウケるの間違いない。私ビーチ姫来てくから合わせよ？」「じゃあ私はピカネズ着るね」「シュマブラみたいでおもしろそう。私ビィカーにする～」

というのが、1週間前に友達とのあいだであったとかなかったとか